作品3

□2014☆夏企画
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リクエスト内容
〔疲れがたまって壊れたイゾウとうっかり捕まったステファン。〕





天気は快晴。
現在夏島の海域を航行中のモビーディック号は、連日の厳しい暑さにより体調不良者が続出していた。しかしもともと全体で1600人ものクルーを抱える大所帯の白ひげ海賊団は、寝込んだ人間が多少いたとしてもその運営に影響が出る事は少ない。

もっとも、それが満遍ないものならば、だが。


「……だぁ!…くそっ!」


小筆を硯に乱暴に置いたイゾウは、文机に向かいシャンと伸ばしていた背筋を弛めるとバッタリと背中から畳に倒れた。
そしてそのままの体勢で、暑さ対策の為に着ていたいつもよりも薄い一重の着物の襟元をグイと些か乱暴に寛げると、帯に挟んであった扇子を取りだしそこに風を送り込む。


「…あぢィな、……くそ、進まねぇ!」


山のように積まれた書類をチラリと見遣ると、珍しくまるで暑さに責任転嫁するかのようにごちたイゾウは立ち上がり、気分転換をしようと部屋を出た。


「大体、何でうちの隊ばかりこうなるのさね。」


ブツブツと独り言を溢しながら夏物の草履でサカサカと早足に歩く彼は、しかしながら着物の裾を一切乱す事無く動いている辺り、流石としか言い様が無い。
だがそんな伊達男ですら、今回の事態…つまりは16番隊のクルーの大半が夏バテでダウンしている状況を前にしては、常のような斜に構えたクールな彼を維持するのは難しいらしい。それどころか、暑さの為かはたまた激務のためかは分からないが気分が高ぶり始めたらしく、足を動かしながら次第に「…ふふっ」と何が楽しいのかよく分からない笑みまで溢し始めた。
そして辿り着いた食堂の扉を、バン!と大きな音をたて、普段から所作には気を使う彼らしからぬ乱暴な動作で開くと、


「サッチィ、茶だ、茶ァくれ!」


と厨房に大声で叫ぶ。
更には厨房から帰ってきた「あぁ!?」という不満そうな返事をスルーしてドカリと椅子に腰掛けると、着物の裾が捲れるのも気にせずに足を組み、ギコギコと椅子を傾け揺らし始めた。








一方こちらは事務室。


「……あづい。」

「…わふぅ……。」


デスクにだらしなく伏せた体勢で呟いたナツコは、彼女の足下で同じくだらしなくひっくり返って腹を丸出しにしているステファンを見遣ると、憐憫の情がありありと浮かんだ表情で続けて


「あぁ…毛皮はキツいよね、ステファン。」


と言うと、デスクにあったファイルでパタパタと風を送ってやる。


「…わふん」


最早生ぬるい風しか来ないもののそれでも幾分かマシらしく、ステファンは気持ち良さそうに目を細めると更に足を拡げ、出来るだけ放熱しようと試みた。


「…こんな日だけは、青キジが欲しくなるなぁ。」


この場にマルコ辺りが居たならば即座に咎めそうな一言を呟いたナツコは、相変わらずパタパタとステファンを扇ぎながら暫しボンヤリとした後、「そうだ」と呟くと足下で今度はラグの様に平べったくなっているステファンを覗き込んだ。


「ステファン、食堂行ってサッチ隊長に何か冷たいものでも貰おうか。」

「わふ!」


現金なもので、彼女の提案にヤル気が出たらしいステファンは素早く立ち上がると、元気よく吠えた。










「…おい、あれ見ろよ。」

「いや駄目だ見たら死ぬぞ。」


食堂の一角では、クルー達がヒソヒソとそんな話をしている。
彼らがチラチラと様子を伺っている方向に、不思議そうな顔で視線を向けたナツコは暫し絶句して立ち尽くした。


「あ”〜〜〜…ワレワレハ、ウチュウジンダ……」


貝〈ダイアル〉から吹き出ている風を真っ正面から受け、何故か上記のような謎の独り言を呟いているのが、まさかの粋と雅を愛する16番隊隊長イゾウその人だったからだ。
だが足下にいたステファンがナツコを見上げ「わう?」と声をかけた事によりハッと我に還った彼女は、止せばいいのに恐る恐るとイゾウに近寄ると、


「た、隊長…?イゾウ隊長?」


と僅かに震えながら声をかけた。


「あ”〜〜〜………ん?よぉステファン!」


しかし、帰ってきた返事は彼女ではなく彼女の足下にいるこの船のアイドルに向けられたものだった。

16番隊隊長、イゾウ。激務のあまり「事務員」である彼女の存在をスルーする事に決めた。

もっとも、現在進行形で書類作業に追われている彼にとっては仮に存在を認識していたとしても、書類を回収して回る「事務員」の存在は「悪魔」と言っても過言では無いのだが。
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