作品3
□2014☆夏企画
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リクエスト内容
〔不器用なイゾウさん〕
完璧な貴方に恋をしました。
けれど、貴方は完璧じゃありませんでした。
それは私だけが知っている事で
他の誰も知らない秘密。
[Weak Point!]
毎日暑い日が続いている。
茹だるようだけど、サラリとした汗は何とも心地が良くてついつい体を動かしてしまったりする。
少しの休憩も兼ねて、甲板の隅へ腰を下ろして未だ鍛錬中のクルーの姿をじっと見詰める。暑いのによくやるなーなんて事は言える筈もなく、同じ様な考えを持つ家族達に知らず知らず頬が緩んで来るのもまた事実で。
そんな中、集団の中で一際目立ちながら華麗に動く人物を見付けて、感嘆の声が私の口から漏れ出る。
「はー、やっぱ凄いなぁ…イゾウさんは」
銃を得物とし、戦場を駆け回るイゾウさんだけれど、実の所彼が得意なのは銃だけではない。
剣を持たせても弓矢を持たせても天下一品、双節棍や三節棍を持たせても難なく使いこなしてしまう。更には体術だってとんでもなく優れている。
「邪魔するぜ」
「お疲れさまデス」
「どうした?ぼーっとしてよ」
「んー、イゾウさん、やっぱ凄いなぁって」
何も戦闘だけじゃない。
舞踊だって物凄く上手だし、歌を詠むのも素敵だし、読めないくらいの達筆だし、歌声だって素晴らしい。
「イゾウさんて、何でも卒なくこなしちゃいますよね。それってとっても羨ましくて」
「…ただの器用貧乏かも知れねぇぜ?」
「でもやっぱり凄いですよ。苦手な事なんてないんでしょう?」
「………まぁ、な」
非の打ち所がないってこんな人の事を言うのだろう、と。つい最近までの私はそう思っていた。もう一度言う、つい最近までそう思っていた。
でも私は気付いているのだ。
こんな完璧に見えるイゾウさんだけれど、弱点がある事を。
「あー、そう言えばもうすぐですねー」
「うん?」
「モビー恒例ピクニック」
ヒクッとイゾウさんの頬が引き攣ったのを、私が見逃す筈がないのだ。
「親父さまも素敵ですよネ、交流を深める為にみーんな自作のお弁当を拵えて持ち寄らせるなんて」
「…今日は、なかなか蒸すな」
ニコーっと笑って見せれば、イゾウさんの引き攣りは更に激しいモノとなる。そう、何でも卒なくこなすイゾウさんの弱点とは、壊滅的に料理が下手だと言う事。
不可思議な点がいくつかあった。
ピクニックなんて一度も来た事がないし、だぁれもイゾウさんの手料理を食べた事がないんだ。マルコさんでさえ。
だからこっそり嗅ぎ回って、ビンゴだったのだ。
夜中に食堂に入ったら、食材片手に大暴れしているイゾウさんがいた。ただのストレス発散かと思って、もちろん見ない振りをしてみたけど、よく考えたら練習をしていただけだったんだ。料理の。
それからも色々見張ってたら、不器用とかそんな次元を越えた壊滅的料理下手だとわかった。
だってお肉焼くだけでも爆発するし、お湯を沸かせば緑色の煙が出るし、野菜を切ればイゾウさんは血まみれになる。一度コッソリ味見をして、私は三日三晩寝込んだ。あれは人間の…いや、生き物の食べ物じゃあない。
「生憎その日は偵察 」
「スクアードさんがわざわざ代わりに行ってくれるそうですよ」
この日の為に私がお願いしときましたから、と告げれば、まさに唖然とした表情のイゾウさんがいて少しばかり可笑しくなってきてしまう。
「あ、あぁそうだ。マルコに頼まれた書る 」
「それなら私が終わらせました」
「な…」
「うふふふふー、楽しみですねーピクニックー」
「ナツコ…お前さん何企んでやがる」
「えー、何も」
困ったみたいに溜息を吐くイゾウさん。
なんだかその姿が妙に可愛くてドキドキしてしまう。いつもからかわれてるんだから、たまにはこれくらいしたって罰は当たらない筈だ。
「教えてあげましょーか」
「あぁ?」
こう見えて私、サッチさんの右腕なんですよ、と。ニコニコしながら言葉を続ければ呆れた様に、イゾウさんは小さく笑った。
「敵わねぇよ、お前さんにゃあ」
「じゃあ、特訓しましょうか」
「…頼むぜ、お師さん」
「お任せくだ……っ?!」
ピクニックまでには形になりますよ、と言おうとした私の言葉は、急にイゾウさんに抱き寄せられた事により、音にはならず喉の奥へと消えて行った。
「ななな、」
「…特訓料は、体でイイんだろ?」
「イ、イゾ…さ、」
「安心しろよ、惚れた女を料理する事に関しちゃァ、おれの右に出るモンはいねぇからよ」
「…ん、」
チクっと、首筋に電気が走って
そちらを見やれば、
イゾウさんが私の首筋に顔を埋めていた。
「…とりあえずの手付けだ、取っときな」
「ビ、ビシバシ行きますからねっ!」
カラカラ笑いながら
イゾウさんは至極楽しそうに
船内へと姿を消した。
私の首に、
手付金と言う名の紅い花を残して。
彼の弱点が料理なら、
私の弱点はそんな彼なのかも知れない。
不器用な愛情表現のイゾウさんは、
いつもより何処か幼くて、可愛かった。