作品3
□2014☆夏企画
25ページ/26ページ
リクエスト内容
(「蚊さされがあまりにも痒くてかきまくる彼女、それをどうにかやめさせようとするイゾウさんという設定」の話)
いつも澄ましている綺麗な顔が、歪んでいる。
眉間に皺を寄せて、口はへの字。
どこからどう見ても、イゾウ隊長は怒っていた。
手を忙しなく動かして、包帯をひたすら巻いている。
私に。
「動くんじゃねェ」
「いやいや、おかしいでしょ」
左の二の腕に、ぽちっと小さな虫刺されの跡ができた。
それを私より先に見つけたのはイゾウ隊長で、船医の元へ私を連れて行ったのもイゾウ隊長だ。
薬を受け取ろうとしたら横取りされて、包帯を何個もちょろまかしていた。
何をするかと思えば、薬を塗って包帯を巻いて、巻いて、巻いて、巻いて、巻いている。
「ちょっとこれじゃご飯も食べれないって」
二の腕どころか、手にも包帯を巻き始めていた。
キツく巻くから腕どころか指も動かせない。
動かせないほどキツいのに、痛みはまったくないとか、イゾウ隊長すごいな。
私が感心している間も、せっせと包帯を巻いている。
どんだけ包帯、盗ってきたんだ。
「ナツコ、先週のこと覚えてるか?」
「先週?」
「お前さんが蚊に刺された後どうしたか」
今は服に隠れて見えないけれど、右足のふくらはぎにまだ傷跡がある。
「あー…」
「掻き毟りすぎて血が出たよな。その後に雑菌が入って大騒ぎだったのを、忘れたわけじゃないよな?」
にっこり顔だけで笑う。
声も眼も笑っていないのが良く分かるから、恐ろしくって仕方がない。
「また騒ぎを起こす前に予防してやろうっていうありがたい隊長の思いを素直に受け止めてな」
「いやいやいや、だってトイレとかどうするんですか」
口をパクパクして反論の言葉を考えている間、されるがままに包帯を巻かれていたら、右腕まで使用不能にされてしまっていた。
「トイレくらい、手伝ってやるよ」
ありえないくらい爽やかに笑うイゾウ隊長は、誰だあんたと言いたいくらい胡散臭くて、控えめに見ても変態だ。
勘弁してよ。
どうやら先週の私が怒らせすぎたらしい。
さて、どうしたものか。
こういう時は、アレしかない。
【正気に戻って】
私は立ち上がり、イゾウ隊長に回し蹴りを放った。
当然のように避けられたけれど。
「私が悪かったですよ!もう!いつものカッコいいイゾウ隊長に戻って!」
かくして、戦いの幕は切って落とされたのだった。