作品3

□2014☆夏企画
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リクエスト内容
[男らしいイゾウさん]






「やだ」
「やだじゃねぇよい」
「ナツコちゃん、今日という今日は流石に許さねぇよ?」
「いーやーだー!」



[グリンピースっ!]



今日に限ってサッチもマルコも意地悪だ。いつもなら仕方ねぇなぁとか言いながら許してくれるのに。マルコは私の隣に腰掛けて頬杖付きながら睨んでくるし、サッチに至っては仁王立ちで腕組みしながらこっち見てる。怖い。


「そんな事ばっかしてるからいつまで経ってもちっちぇーままなんだよい」
「どこ見てんの」
「…背丈の話だよい」


私の目の前には一枚のお皿。
今日のご飯はチキンライスだった。サッチが作ったから勿論最高に美味しかったのだけど。


「なんっでこんなの入れるかなぁ?!」
「彩りって知ってるか?」
「彩り目的ならいいよね?ね?」
「ダーメ」


チキンライスだとか、付け合せのポテトだとか、全て綺麗に平らげた。美味しかったから。けれど。
お皿の端っこにこんもりと鎮座するグリンピースさん。この緑の豆野郎が曲者だ。


「むり、食べれない。やだ嫌い」
「好き嫌いは許しません」
「ご丁寧に除けやがってよい」


これでもか!ってくらい。
私のチキンライスにはグリンピースさんがたっぷり入っていた。恐らくサッチの仕業。いつもいつもグリンピースさんを残すから、流石のサッチも堪忍袋の緒が切れたんだと思う。
けど、そのグリンピースさんも残した。
宛ら内職ばりに、一粒一粒端っこに追いやった。

いつもなら上手く行くのに
今回は物の見事に見付かってしまい
今に至ると言うわけだ。

グリンピースくらいいいじゃん。


「食べろよい」
「ヤダ」
「食べなさい」
「やだやだやだ!やーっ、うぇぇぇぇぇん!」


マルコが私の口をこじ開け
サッチが鼻を摘みながらグリンピースさんを押し込もうとして来て、その余りの強引さに私は大絶叫、のち大号泣。二人とも慌てふためいてるけど知るもんか…!



「何の騒ぎだよ」
「「イゾウ!」」
「う"ぇ、いぞうさぁぁん…」


こう五月蝿くちゃゆっくり寝てられねぇよ、と現れたのはイゾウさんで。欠伸を噛み殺すさまは何とも色っぽい。


「ほぉ、二人がかりで手篭にしようたぁ…男の風上にも置けねぇなぁ?」
「ちげぇよい!」
「人聞き悪いっつーの」


どうやら勘違いしたらしく、じろりと睨みながら得物を取り出そうとするイゾウさんに二人が慌てて状況を説明する。イゾウさんはじっとそれを聞いていたかと思えば、くつりと喉を鳴らして私の頭に触れてきた。


「ナツコ」
「ふぁい…」
「グリンピース、嫌ぇなのか?」
「うん、嫌い。すっごく嫌い」
「そうか」


小さく笑ったイゾウさんは
サッチの手からお皿を奪い取ると
一気に残ったソレをかき込んだ。


「…ん、ごっそさん」
「イゾウさん…?!」
「おいイゾウ!」
「てめぇ何してんだよい」


一瞬の内に起きた出来事に
私もマルコもサッチも驚きを隠せない。

心臓がコトッと音を立てたのか気のせいか。

そんな中、イゾウさんを咎めようと二人が口々に捲し立てればぎろりと眼光鋭く睨み付けてくるもんだから、グッと言葉を飲み込む二人。



「…手篭じゃねぇにしろ、嫌がる女に無理強いたァ感心しねぇなぁ…?」
「いやでもよ、ナツコが好き嫌いすっから」
「おいサッチ」
「なんだよ」
「てめぇ腐っても料理人だろうが」


私の頭を優しく撫でながら、イゾウさんはサッチを咎める。それにサッチが唇を尖らせて反論すれば、有無を言わさず言葉を続ける。


「料理人ならよう、嫌ぇなモンでもうめぇって思わせる料理の一つでも拵えて見やがれってぇの」
「…でもよぉ」
「それが出来ねぇでも、気付かねぇくれぇに混ぜて何とか喰わせて見ろ」
「うっ…」


いーぞもっとやれ!
コッソリとイゾウさんにエールを送っていれば、サッチが紙ナプキンを丸めて投げて来た。女々しいやつめ!


「それからマルコ」
「…なんだよい」
「てめぇもてめぇだ」
「好き嫌いは良くねぇだろい」


これでもかと言うくらい、不機嫌MAXなマルコは怖い。今にも覇気とかだだ漏らしそうでほんとに怖い。


「てめぇもケツの穴のちっちぇー男だな。女が嫌だって言ってんだ、笑って許す度量はねぇのかよ」
「それとこれとは話が違ぇだろい。食いモンを無駄にすんなって言ってんだよい、おれァ」


海の上でそんな贅沢が罷り通るわきゃねぇだろい、と苦々しく呟くマルコ。そんなマルコの言葉を最後まで聞くか聞かないかの内に、イゾウさんはニイッと口角を吊り上げてそれはそれは意地悪く微笑んだ。


「…へぇ、ナツコが残したら無駄になんのかい」
「当たり前だろ…い…っ?!」
「おやお気づきで」


やられた、とでも言うように
マルコは額を押さえて俯いて、
それを見たイゾウさんはカラカラと笑う。


「おれが食ったンだ、無駄にゃならねぇだろう?」
「で、でもよい…!」
「そもそも、マルコお前さんよう…。泣く程嫌ぇなモンを無理矢理食わして体でも壊したらどうすんだよ」
「グリンピースは毒じゃねぇよい」
「プラシーボ効果って知ってんだろうが」
「…っ、」



イゾウさんは凄い。
あのマルコを黙らせてしまうんだもん。
それでも、マルコはイゾウさんに食ってかかろうとするのだけれど、次いで紡がれる言葉についにはグゥの音も出なくなったみたいだった。

やった勝った!
小さくガッツポーズをしていると、サッチはまたもや丸めた紙ナプキンを投げて来た。しかもマルコまで一緒になって。何処まで女々しいんだこの兄達は!


「ナツコ、お前さんの嫌ぇなモンはおれが食ってやる」
「イゾウさん、ありがと」
「けど、そのままじゃあダメだぞ」
「?」
「一粒ずつでも構わねぇから、食えるようになりな」
「うう…」
「そうすりゃ、今よりいい女になるからよ」
「…うん!わかった!」


イゾウさんがそう言うなら、ちょっとずつでも頑張れそうな気がしてきた。そんな単純な私を見透かしてか、イゾウさんは私の頭を撫でながら『うめぇ干菓子があるからおいでなんし』と囁いて、手を取り立ち上がらせる。

悔しいのか何なのか。
サッチもマルコもこちらへ向かい叫んでる。


「ナツコ!好き嫌いは良くねぇよい!」
「そうだぞナツコちゃん!」
「べーっだ!」
「「なっ…」」


キャンキャン吠える二人に
あっかんべーと舌を出し
イゾウさんの後ろを着いて行く。

イゾウさんはかっこいい。
然り気無い優しさとか、思いやりとか
淡々とマルコ達を言いくるめる様だとか、
誰にでも出来る事じゃないよね。

なんか、これぞ男!って感じ。










─その男、鬼畜につき──

(さぁ、たんと食え)
(いっただきまぁ……?!)
(ふふふ、うめぇだろ?緑豆の干菓子)
(鬼!悪魔!うぇぇぇぇぇん!)
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