作品3

□2014☆夏企画
16ページ/26ページ

リクエスト内容
[幼馴染みイゾウ切甘]






好きで好きで好きで、
どうしようもないくらい大好きで。
あまりにも好き過ぎて、
それこそ身が焦がれる程に愛してる。

けれど、
言わない、言えない。
負担になりたくないの、
重荷になりたくないの、

貴方には貴方の道がある。
私の道は貴方に続いてるけど、
貴方の道は、もっとその先に。




「…もう、行く?」
「あァ、そうだな」
「そっか。気を付けてね」
「ナツコ、」
「ん?なぁに?」
「おれと……いや、何でもねぇ」



イゾウと私はいつも一緒だった。
物心ついた時から、気付けばイゾウが隣にいて。
イゾウのお祖母さまに二人で踊りを習ったり、とにかく何をするにも一緒だった。


けれど、
何が切っ掛けとか、
いつからかとか
そんなのわからないけど。

二人の距離は少しずつ広がった。

イゾウはいつからか海へ思いを馳せ、
私はそんな彼に想いを馳せる。


海賊になりたいだなんて、
そんなの手放しで賛成は出来ない。
危ないもの、危ないもの…
会えなくなるもの…

けれど、
イゾウには夢を叶える権利はある、
でも私にはイゾウの夢を邪魔する権利はない。



小舟に乗り込むイゾウに向けて
最初で最後の嘘を吐く。



「なァ、寂しいか…?」
「うーん、そうでもないかな」
「そう…か」
「何よ辛気臭い。今生の別れじゃないんだからね」



そうおどけて見せれば、
困った様にイゾウは微笑んだ。
ちげぇねぇ、と短く呟いて
優しく優しく頭に触れる。


やめて、優しくしないで
堪えた涙が零れてしまいそう。
一世一代の大芝居を打ってるのよ?

去り行く貴方に、
旅立つ貴方に心配かけたくないから
せめてもの笑顔で送り出してるの。



ねぇ、ねぇ、ねぇ。
貴方が好きだと言ったなら、
イゾウが好きだと、言ったなら。

貴方はもう一度、
優しく撫でてくれますか?
地に足をしっかりつけて
私と歩いてくれますか?



「…また会えるといいね」
「世界は丸いんだ、すぐに会えるさ」



あぁ、私はどうして
どうして私は言えないの。

行かないで、寂しいから 
連れて行って、耐えられないから。


多分それはわかっているから。
こんなに小さな言葉でも
貴方の重荷になってしまうと
私が一番わかっているから。



「…それじゃぁ、行くぞ」
「うん、元気でね?」
「お前さんもな」 




お互いに小さく笑って手を振って
またねと何度も呟いた。
さよならなんて
言えない、言いたくないから。

くるりとイゾウが背を向けて
ゆっくりと小舟が動き出す。

イゾウの背中に向けて
聞こえないように言葉を零す
頬を流れるのは
伝え切れなかった言葉達。



ねぇ、イゾウ
さっきは何を言いかけたの?
おれと…来い?
無理しなくていいのに、
心配しなくていいのに。

貴方はいつもそう、
私の心配ばかりして
自分を疎かにしてしまうの。

小さい私はそんな貴方に甘えて
べったりぶら下がってばかり。
貴方が自分を犠牲にしてたなんて
考え付きもしなかった。

けれど、今は違う
私も随分と大人になった。

だから、だから、だから…。


私は笑顔で貴方を送る。
貴方が見据える道の先を
一緒に見たいなんてワガママは言わない。

でも、どうか。
真直ぐに進む貴方の無事を
祈る事は許して下さい。



「…イ、ゾウ……元気でね……ッ」



イゾウが小さくなって行くのを見たくなくて、もう会えなくなるかも知れないって事を認めたくなくて、俯き顔を覆い嗚咽を漏らす。遠くで水音が聞こえた様な気もするけれど、そんなのはどうでもいい。本当は最後までイゾウの背中を見送りたかったけど、どうやらそれも出来そうにない。

目に張る膜がそれを邪魔する。
ごめんね、イゾウ。
これは私のワガママです。
貴方を最後まで見つめられ無いけど
貴方の背中は、笑顔は、焼き付けました。



「…ッ、イゾウ…イゾウ……!!」



立ってもいられなくなって、その場に膝をついて、顔を覆う手はそのままに、ただただ泣きじゃくる。イゾウの名前を何度も呼んで、心の中では行かないでと叫んでいる私の体をフワリと浮遊感が襲い、訳も分からず目を開ける。

刹那、耳に届く呆れた様な低い声。




「…てめぇはいつもそうさ」
「え…」
「どうして言わねぇ、どうして我慢しやがる」
「イ、ゾ…」



私を軽々持ち上げて腕に座らせるイゾウの全身はびしょ濡れだ。もしかして泣いてるのに気付いて飛び込んで来てくれたのだろうか。などと考えながらも彼の顔を見上げれば、少し怒ったみたいに苦々しく寄せられた眉間の皺、それさえも愛しくて仕方がないなんて。


「…っ、だって!言ったら…っ重荷に…負担に…!」
「ナツコ、負担とか重荷とかそんなのはお前さんが決める事じゃねぇんだ」
「…でも、」
「そんなのは、おれが決める事さ」


ストン、と私を地に降ろす。
濡れた髪をかきあげながら、イゾウは空いてる手で私の頭を優しく、それはそれは優しく撫でてくれた。


「…それによう、おれは海賊になるってぇ言っただろう?」
「う…ん、」



再び襲う浮遊感。
今度はハッキリとわかる。
イゾウに横抱きにされている。

そのまま意地悪そうに笑ったイゾウは、私の耳元に唇を近付けて『なァ、知ってるか?』と甘く問いかけてきた。



「海賊ってぇのはなァ、欲しいモンは何としてでも手に入れンだよ。だからお前さんも奪って行くぜ?」
「…欲し、い?イゾウが?私を…?」
「あぁそうさ、欲しくて欲しくてたまらねぇ」



そう続けたイゾウは、ちゅ、と優しく触れるだけの口付けを私の唇に落として小走りに駆け出した。今度こそ、ちゃんと小舟で出発する為に。

私の道が貴方に続いているように、
貴方の道も私に続いていたなんて。

ねぇ、イゾウ。
貴方が見据えるその先を
私も隣で見させて下さい。
それだけが、私の望みです。









[その先へ]
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ