作品3

□2014☆夏企画
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リクエスト内容
〔不器用なイゾウさん(ぽんちさま)&ポーカーフェイスが崩れるイゾウさん(りえさま)〕





家族たちの陽気な声も波音も届かないモビーの奥深く
殆ど人の来ない静かなその部屋で、私とイゾウ隊長はいつも愛銃の手入れをしている。


銃の手入れは、うっかり手元を狂わせると暴発しかねない。

慎重に分解し、煤を落とし磨いてオイルを塗って、見えないヒビや歪みが無いか丁寧に確認する。
淀みなく一連の作業をするイゾウ隊長の手付きは流石の一言で、覚える為に見せて貰っていた筈がいつの間にかこうして二人で作業する様になっていた。

「終わったか?」
「はい、お待たせしました」

いつも先に手入れを終えるイゾウ隊長は、そのまま静かに私の作業が終わるのを待ってくれる。
私が返事をするや否や、部屋に漂うオイルや硝煙の臭いを掻き消すかの如く、イゾウ隊長の煙管の香りが充満する。


本当に、完璧な人だと思う。
……ここでの様子を見ている限り、は。


「どうした?」
「いえ、ラクヨウ隊長が後で甲板の補修手伝って欲しいって」
「俺にか?ナツコがやっときな」
「じゃあマルコ隊長の手伝いの方をお願い出来ます?」
「チッ…仕方ねェな。今からか?」

渋々と、それでもしっかり立ち上がるあたりは腐っても隊長なんだ、と思う。

「昼食後に。なので、少し早いですけど食事に行きましょうか」
「あァ、混む前に済ませてェ」
「…了解です」

思わず表情が緩んだ理由は、その言葉に含まれた意味に気付いたから。
軽くスキップでも踏みたい気持ちを抑えイゾウ隊長の後に続くも、浮かれた感情はだだ漏れだったみたいで。

「予想通りとは限らねェぞ?」
「…私は期待してます」



若干不機嫌になったイゾウ隊長と益々上機嫌な私。
揃って食堂の扉を潜った瞬間、漂う香りに舌打ちをするイゾウ隊長と小さくガッツポーズをする私。

「取って来ますね」

閑散とする食堂の隅の方、指定席へと真っ直ぐ向かうイゾウ隊長に一言断って、二人分のトレイを受け取りにカウンターへ走る。

「随分と早ぇな」
「うん、午後に作業が有るの。ありがとう、いただきます」

トレイの上には、予想通りグリルした魚。
昨日2番隊が暇にあかせて一日中釣りをしていたから、きっと出ると思ってたんだ。
早く来て正解だった。

「お待たせです…っと」

イゾウ隊長の前に置きつつ、魚の乗ったお皿をさりげなく自分の方に引き寄せる。

「やっぱりお魚でしたよ」
「分かってんなら早くしな」
「はーい」

自分のトレイを横に避け、イゾウ隊長のお魚の解体に取り掛かる。
骨も皮も、綺麗に避けてあげないと全部残すんだから、本当に世話が焼ける。


実はイゾウ隊長は壊滅的に不器用だ。
…銃の手入れを除いて。


お箸の所作は綺麗なのに、魚を綺麗に食べられない。卵は割れないし釣り糸もすぐに絡ませるし、タオル一枚満足に畳めない。
ずっと残していた魚が実は大好物だって知った時には、流石に笑ってしまった。だからこうしてわざわざ早めに食堂に来てる事は、勿論二人だけの秘密だ。

「はい、お待たせです」

苦手な作業は隊員に任せたり上手い事躱したり。本人は面倒臭いだけだと言い張っているけれど、絶対に違うと思う。

…うん。口に運ぶ所作はホント、お手本みたいに綺麗だ。

「…何見てんだ」
「ついでに、食べさせてあげましょうか?」
「ナツコてめェ…調子に乗るんじゃねェ」
「あ、ほら溢した」

二つを上手く両立できないんだから、喋るか食べるかどちらかにしたら良いのに。

クスクスと遠慮なく笑いながら、イゾウ隊長にこんな顔をさせられる自分に満足する。


どうやら隠していたらしいイゾウ隊長の秘密にふと気付いたのが、一年ほど前の事。
何も言わずに手伝ってみたら、それ以降何故か何も言わず言われず手伝う事になり、今日に至る。
その対価が、銃の手入れを見せて貰う事だった…言われて無いけど、多分。


「どうせなら、唯一器用に熟せる銃の手入れを人目に付く所でしたら良いんですよ」

そうすれば誰も、イゾウ隊長が不器用な事に思い至らない筈。うん、いいアイディアだなんて一人納得して食後のお茶に手を伸ばせば、物凄く難しい顔でイゾウ隊長がこちらを見ていて、中途半端に手を止める。

「アレはあそこでやるからイイんじゃねェか」
「何でです?」
「ナツコは器用だが鈍感だよなァ」
「む?」
「俺に勝った気で居るなよ?」

何故か勝ち誇るイゾウ隊長に、それでも悪い気はしなくて、夜のメニューは何かななんて能天気に考える。


【太陽とお月さま】


「もー!イゾウ隊長、やっぱり私がやりますから休んでて下さいっ」
「イゾウんトコの隊員は優しいよなぁ」
「当たり前だろ、ラクヨウとは人望が違ェんだよ」


…いつかバラしてやろうと思う。

fin.
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