作品3

□2014☆夏企画
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リクエスト内容
[煮詰まりheroineイゾウ連れ出し]






グシャグシャグシャ。
小さい子供がお絵描きして
失敗したスケッチブックみたいに。
私の頭の中もグシャグシャだ。



「っ、あーもう!」
「なんだよナツコー、荒れてんなぁ」
「エース隊長暑苦しい消えろ」
「…こえー」



報告書を相手に唸っている私の周りを、相も変わらず半裸のエース隊長がウロチョロしてるもんだから、それが何だか無性に腹が立って思わず一喝してみた。
おーこえー、なんて肩を竦めながらブツクサ文句を垂れたエース隊長はそのまま扉へと向かい、それをぼんやりと見送る。


別に何もかもが上手く行くとは思ってない。
でも何もかもが上手く行かないのも違うと思う。

訓練にしたって、書類にしたって、
恋愛もまた然りだ。


昨日の訓練では扱いを間違ってイゾウ隊長の顔面スレスレに発砲してしまった。あの時の隊長の顔は忘れない、下手な肝試しよりも背筋が冷えた。

それについて反省文を書けと言われたから書いたのに、
見事に拳骨を頂いて書き直しを余儀なくされた。理不尽。
出来るまで休暇はなしと言われて早3日。
せっかく島に着いたと言うのに、さ。



「理不尽だし横暴だ!」
「だぁれが横暴だって?」
「…!」



机に突っ伏して叫んで見れば
背後からひくーい声が聞こえてピシリと固まる。
声の主は振り返らなくてもわかるけど、
勇気を振り絞ってギギッとそちらを見やれば…。



「ヒィッ、般若…!」
「誰が般若だよ、ナツコ」
「ごごごごめんなさいいい」
「だいたいお前さんが悪ィんだろうが」



そう苦々しく呟きながら、イゾウ隊長がヒラヒラと見せる私の最初に書いた反省文。何が悪いかわかんない。



「声に出して読んでみな」
「いぞーたいちょーごめんなさい。てへぺろ」
「……」
「て、てへぺ痛いぃぃぃぃ!」



読めと言われたから読んだのに。
イゾウ隊長は私の頭を鷲掴んだ。



「…反省してんのか?」
「してますしてます、だから離して下さいぃ!」
「ナツコ、」



ふっ、と手が緩んだかと思えば
優し気な隊長の声が私の名前を呼ぶ。



「お前さんはよう、何でもかんでも詰め込み過ぎなんだよ」
「え?」
「気張り過ぎっつった方が早ぇか?」
「えっ…と……ぎゃっ?!」
「まぁいい、来な」
「や、あのちょ!おろしてぇぇぇぇ!!」



ぽふんと優しく頭に触れられて、
それが何だか擽ったくてぽやーっとすれば。
不意に私の体を浮遊感が襲う。


イゾウ隊長に担がれていると気付いたのは、
一拍置いてからだった。
と言うか、私は米俵じゃないんですけど?!

ジタジタと暴れて見たって
隊長よろしく、私が敵うわけがなく。
何とも間抜けな格好のまま甲板へと運ばれた。



「イ、イゾ…たいっ、おろしてくだ…っ」
「…たまには息抜きってのも考えな」
「…っ、」



私の顔はイゾウ隊長の背中側にあるから、
その表情は窺えない。

だけど。

その声色から、あぁ、いつものちょっぴり意地悪い笑顔を浮かべてるんだなって想像がつく。



「…つーわけでよ、」
「うぇっ?!……いやあああああァァァァ!!」



ピタッとイゾウ隊長が立ち止まる。
次の瞬間、浮遊感とはまた別の感覚が訪れて。
私を担いだまま、あろう事か隊長はモビーの船縁から飛び降りた。

バシャーン!と。
盛大な水飛沫を上げて着水すれば、
海の青と空の青が混じり合った不思議な世界。



「…プハッ、ひ、酷いですよ隊長!」
「そうカリカリしなさんな、ちったァ頭冷えただろう?」



全身ずぶ濡れで、
イゾウ隊長に抱き竦められるよう、
プカプカと波間に浮かぶ私の体。

はっとして視線をやれば
隊長が着ている薄手の浴衣が水で張り付いて
その細さからは考えられない逞しい胸板が浮き彫りになっていて、その色気を際立たせている。

匂い立つ色香ってこーゆー事か、なんて
ぼんやりと考えていたけれど。
すぐに頬に熱が集まり始めて気恥ずかしくなる。



「いきなり、飛び降りるな、んて…っ、」
「…ん?」



熱を誤魔化すように
僅かに上に位置する隊長の顔を見上げて後悔した。

綺麗に結われた髪が水で乱されて、張り付いて。
ハラリと崩れた髪からポタポタ落ちる水滴を、鬱陶しそうにゆったりとした動作で掻きあげる隊長。
そのままの表情で、ん?なんて首を傾げるもんだから、余計に艶を帯びているようにも見える。



「…あぁ、やっと戻ったな」
「な、何が…ですか」
「眉間に皺寄せてよう、閻魔さんみてぇな顔だったぜ?」



そう言って、
隊長はツンと私のおでこをつついた。



「お前さんには笑ってて欲しいんだよ」
「え、それってどーゆー…」
「…さぁな、お天道さんにでも聞いてみな」



眩しそうに目を細めながら
イゾウ隊長は煌々と輝く太陽を見上げた。
釣られるように私も空を見上げれば。

真っ青な空にオレンジ色の太陽。
なんだかそれを見るだけで泣きたくなった。
空はいつでも青いし、太陽は変わらず輝いて。
ちっぽけな事で悩んでる自分がバカらしい。

グシャグシャだったスケッチブックが
青とオレンジに染められて。



「…?!な、今なにし…?!」
「てめぇで考えな」



ふっ、と影が差したかと思えば。

むにりと。 
眩しさに皺の寄っていたおでこに、
柔らかい何かが落とされて。

それが何か理解する前に
私の視界は意地悪そうに微笑む隊長の顔で埋め尽くされた。


触れられたそこが酷くジンジン熱いのは、
きっと焦げ付く様な太陽のせい。




太陽 スケッチブック

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