作品3
□2014☆夏企画
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リクエスト内容
(イゾウさんの妖艶で鬼畜な話/イゾウさんのポーカーフェイスが崩れる話)
前の上陸からそれほど日を置かずに島への上陸となり、食糧や日用品の補充などで慌ただしい思いをしないで済んだ。
その分、空いた時間はゆっくりと買い物を楽しんだナツコが、一度船へ戻り荷物を置いて待ち合わせの酒場に着く頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
今日はナツコの所属する隊の仲間だけで集まる予定で、時間の指定はないが、あまり遅くからの参加だと出来上がった酔っ払い隊員に何を言われるか。
「誰も出来上がってませんように」
前の島は夏島で、その時の記憶が甦る。
遅れて参加しに行ったら、酔っ払ったほかの隊の隊長が脱ぎ始めてて、素面な自分がひたすら店主に平謝りしなければならなかった。
笑って許してくれていたが、あんな思いはできればしたくない。
何事もありませんようにと祈るようにして酒場に入ると、一番目立つ席にイゾウがいた。
ナツコもイゾウも16番隊で、イゾウは隊長を務めている。
イゾウはワノ国の出身で、普通の人なら見慣れない服装や髪型で、黙っていれば中性的な妙な色香を放っている。
「遅かったな」
「そ、そうですか?」
つい、いつもの癖でナツコはイゾウの隣に座ってしまって、後悔する。
イゾウにはかなりお酒が入っているようで、見慣れていないと気づかないけど、薄っすらと顔が赤らんでいる。
イゾウは、わかりやすく酔っ払う事があまり無い。
笑い上戸になるとか、泣き上戸になるとか、具合を悪くして誰かに迷惑をかけるとか、寝てしまうとか、陽気になって脱ぎだすとか、それらを覚えていないなんていうことは一切ない。
よく見ないと分からない程度に顔が赤らむ以外は素面の時と同じ。
口元に緩く弧を描き、巧みな話術で相手を翻弄して笑っている。
一つだけあるとすれば、酔っ払うと素面の時よりも短気になる。
何か気に入らない事があって口をへの字に曲げている時に、誰かがスイッチを押してしまえば、ものすごくぶち切れる。
ただし、ナツコにはイゾウのぶち切れスイッチがどこにあるのか分からないので、酔っても酔っていなくても変わらない。
今のイゾウは、口がへの字になっている。
誰かがイゾウのヘソを曲げたらしい。
「隊長。ナツコだって年頃なんすよ?島に上陸したら好きにしたいよなー?」
「え?あー、まぁ…」
「へぇ?」
それは面白い事を聞いたと言いたげなイゾウの微笑みは、妙な威圧感があった。
イゾウの隊長ぶりに不満など、これっぽっちもない。
上陸時に誘われれば共に行動するし、時間を指定されればそれに従うだけだ。
ただ、同じ隊の先輩隊員は、何か思うところがあるのだろう。
話の流れが分からず、求めているものがよく分からない状態では、肯定も否定もできない。
ナツコは曖昧な返事しかできなかっただけだ。
だから、その返事によって話がどんな方向に転がろうと、ナツコにはどうすることもできない。
不可抗力というやつだ。
嫌な予感はするものの、苦笑いをするだけで流されるままだ。
「ほらね!あんまり煩いと嫌われますよ、隊長」
「ナツコだって、デートくらい行きたいよな!」
「おいおい、ナツコはねんねちゃんだぜ?相手がいないだろ」
「ねんねちゃんは言いすぎだって。夢見る乙女だろうけどよぉ」
「生娘だもんなぁ、いいよなぁ」
好き勝手言い出した隊員達が、ゲラゲラ笑っている。
散々な事を言われているが、ナツコはあまり気にしていない。
酒の席であるし、実際に相手はいないし、恋だってまだだ。
だから、その内容よりも馬鹿にされている感じに、ナツコはムっと気を悪くした。
「私、もう処女なら捨てちゃいましたよ?」
思いついた勢いのまま、ナツコがさらりと爆弾発言をしてやると、彼女をを中心に一瞬でしんと静まり返った。
してやったり。
ここまで驚かれると、ナツコは面白くて仕方がない。
自然と勝ち誇った顔になる。
けれど、事実でないことを言うのは、やはりよくない。
すぐに嘘です冗談ですって言おうとしたが、ナツコの爆弾発言時には目を見開いて驚いていたイゾウがキレる方が早かった。
眼をつぶり拳を握り締め、細かく震えた後、開いた目が据わっていた。
真横に座っていたナツコは気づいていなかったが、向かいに座っていた隊員はイゾウのその様子に青ざめていた。
「どこのどいつだ?いや、今はいい。後でなぶり殺しにしてやる」
イゾウの声は地響きのようで、覇王色の覇気でも使ったのかというくらいの気迫だった。
誰も何も言えないし、動けない。
それくらい殺気立ったイゾウを、ただの平隊員の誰が止められただろうか。
「それより」
イゾウは財布の中身を隊員の一人に預けると、ナツコを担ぎ上げた。
「俺の断りもなく、誰かがナツコを好き勝手にしたわけだよな。気にくわねぇ。てめぇら今夜は船に帰ってくるなよ」
船室は、隊別にまとまっている。
イゾウの部屋近くには、当然この場の面々の部屋がある。
「あの」
「黙んな」
ナツコにはそれだけ言うと、イゾウはナツコを担いだまま船へ帰っていった。
【覆水盆に返らず】
その後。
ナツコは、イゾウの誤解を無事に解けたものの、大事にしていたものを失った。
その代わりに隊長を手に入れて、腑に落ちない形で恋というのがどういうものか知った。
イゾウはというと、他の隊長や隊員から責められてから、報われてよかったと祝われたりしていた。