作品2
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【5、noco】
「あー!ボニーゴメンっ!今度ご飯奢るから見逃してっっ」
イゾウ先生を探して教室を覗いたら、親友のボニーに「片付けくらい手伝えよ!」って言われたけど、片付けてたら後夜祭が始まっちゃうんだ。
もう!!
何で担任のクセに、後片付けの教室に居ないんだ!
どうしよう、時間が無いよ。
重い荷物持って朝早くから登校して。
イゾウ先生探して校内走り回って。
ローの奴に散々振り回されて。
さっき必死に振り切った筈のイゾウ先生を探して、また校内を走り回っている。
職員室、教科準備室、体育館、屋上…。
行ける場所は、全部探した。
一縷の望みをかけて行った校舎裏にも、サッチせんせーのナナハンが停まってるだけで、誰も居なかった。
「イゾウ先生…」
『間も無く、後夜祭を開催します。参加する生徒の皆さんはーー』
校内放送が、タイムリミットが近い事を容赦無く告げる。
「ふぇ…」
ポロポロと、涙が零れた。
ホントに、今日は厄日なんだ。
せっかく決心したのに。
ローに振り回されながらも、頭をよぎるのはイゾウ先生の事ばかりだった。
サッチせんせーに話す事も、イゾウ先生の事ばかりだった。
卒業まで、待つつもりだったけど。
やっぱり、約束が欲しい。
「っく…うー…イゾウ先生のバカ。オニ。鬼畜。ダメ教師」
でも好き。
ムカつくくらい、大好き。
「人の居ない所で悪口ばっか言ってんのか、お前さんは」
「な、な、な…イゾウ、せんせ…」
心臓が、飛び出るかと思った。
「何で、ここに…」
「後片付けサボってる生徒探すのも、担任の仕事だろ?」
探していたのは、私の方。
「ほ、他にもサボってる人居るじゃ無いですか。何で私を…」
「さぁな?ダメな生徒ほど可愛い、とも言うしな」
息も切らさずに平然とした顔をして、煙草を咥えてニヤリと笑う先生に、胸が苦しくなる。
「…先生は、狡い。大人で、余裕が有って、私ばっかり…」
言いたかったのは、こんな事じゃないのに。
自分が情けなくて、悔しくて。
ぽろり、とまた涙が零れる。
「なぁ、ナツ」
「は、はい?」
「教師、辞めて欲しいか?」
「なっ…やです!ダメです!先生が、先生やってるイゾウ先生が好きなんです、だから…」
イゾウ先生ってば、いきなり何を言い出すんだ。
教師辞めたら、ちょっとイケメンで鬼畜なタダの大人になっちゃうのに。
「卒業待ってんのは、ナツ、お前さんだけじゃないってこった」
「へ…?」
って…先生、それは。
へなへなと座り込んだ私の頭を、くしゃっとイゾウ先生が撫でた。
「今はこれだけで我慢しろよ」
そう先生が言い終わったと同時に。
後夜祭の開始を告げる校内放送が、高らかに鳴り響いた。
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