作品2

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【4、ginger】




俯いて、上履きを見つめるのに集中したところで、突き刺さる視線は気のせいにできない。

イゾウ先生も、ローも、人気があるから、何かあればすぐに野次馬がでる。
俯いていても、すでに人だかりができているのが分かる。

だから、二人の間にいて、しかもローに手をつかまれちゃってたら、当然、注目の的になってしまうし、女子の非難の視線がざくざくと突き刺さってくる。

どうせなら代わってくれていいよと本気で思うけれど、無理な話。

…よし、覚悟を決めよう。


「ロー」


小声で精一杯可愛らしく呼びかけて、もう行こうと促す。

と、見せかけて、狙い定めて思いっきり、ローに頭突きした。


ゴッ!!


硬いものがぶつかる鈍い音がして、星が見えそうなくらいのクリティカルヒット!
ちょっとだけ、頭がクワンクワンと揺れるのを我慢して、私はローの手を振りほどいて走り出した。

イゾウ先生とローの、待てという声が聞こえた気がするけれど、それよりも野次馬の女の子の甲高い悲鳴のほうが耳についた。
きっと、大丈夫?私が看病してあげるとかなんとか、女の子がローに群がってくれているに違いない。

どこかのクラスの出し物の看板を倒して通路を塞いでしまえば、イゾウ先生は追ってこれない。
だって、“先生”だもん。
困ってる生徒は放っておけない。

息を切らして、振り返ってみれば、迷惑この上ない逃走劇が、見事成功していた。
二人の姿も、人気もないことをいいことに、私は第2調理室に入った。


「サッチ先生いる?」
「ナツちゅわぁぁぁん!今は僕一人だよぉぉ」


第2調理室は、サッチ先生が趣味で始めたクッキング部の管轄だ。
クッキング部以外にも、うちのクラスのように食べ物屋をしているクラスはたくさんあるけれど、すべて第1調理室で、食材の準備をしている。

だから、今この調理室にはクッキング部の唯一まともに活動しているサンジ君しかいない。
彼は今、女子から隔離されて、今はひたすらクレープを作っていた。
きっとオーブンでクッキーも焼いている。

女子がいると、メロリン状態、僕は愛の奴隷ですとかなんとか言って、商売にならないらしい。
売り上げが部費につながるのにと、去年、サッチ先生が文句言ってた。


「そっか。ね、サンジ君。しばらく匿って?」
「プリンセスの頼みなら、喜んで」


店番をさらにサボることになるけれど、今戻っても二人のどちらかに捕まって変わらないだろうしね。
外から見えない位置に腰を下ろせば、内緒だよって作りたてのイチゴのクレープを渡された。


「今日は誰から逃げてきたんだい?」
「イゾウ先生と、トラファルガー・ロー」


何かあるたびに、サッチ先生のところにかけ込んでいたから、顔見知りになって仲良くなった。
サッチ先生のところに行くのは恋の相談で、今もその恋は継続中だって知っている。

だから、サンジ君は私にはあまりメロリン状態にならない。
あまり、だけど。


私はサンジ君から貰った美味しいクレープを頬張りながら、むすっとしていた。

二人から、決定的なことは、何一つ、言われたことがない。
でも、微妙に近い距離感に、どうしていいかわからない。

私は1年の時にイゾウ先生にフラれている。


『卒業したら、考えてやるよ』


って。

そりゃそうだよね。
生徒に手を出すようになったらオシマイだ。

諦めたわけじゃない。
困らせちゃいけないから、一歩引いて、でも大好きで。
どうしようもない時は、サッチ先生に相談して、それが見つかってイゾウ先生に何でか怒られる。

そんな日々が楽しかったけれど、ある日トラファルガー・ローが絡んできて、それからはあんな感じだ。

あぁ、噂の子かって、いろんな人に声をかけられ、絡まれて、巻き込まれて、振り回されて。

私が大きなため息をつくと、サンジ君は笑いがこぼれた。


「そういえば、ナツちゃんは知ってる?文化祭が終わって、後夜祭が始まるまでの短い時間にさ。告白して結ばれたカップルは、いつまでも結ばれるってジンクスがあるんだよ。」
「…それって卒業後の予約でも、有効かな?」


今日の出来事なんて、すっかり忘れて。


「どうだろうね。試してくれば?もし、駄目だったら…、僕の胸に飛び込みにおいでぇぇぇ」


くるくると回転しながら近づいてくるサンジ君は無視して、私は先生を探しに調理室を飛び出した。


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