作品2

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【3、まいまい】




あれから結局、先生はたこ焼きをひとつしかくれなかった
「まぁ美味しいからいいか」と呟けば「ちょっと味が濃すぎるな」なんて返ってくる

まったく我が儘だ
てか、そんなに細い体でよく残りの7個も食べれたものだ

まぁ…先生は着やせするタイプかな、なんてボーッと考えていればなんだか顔が赤くなる

そんな私の様子を気づかない訳なく、ましてや無視なんてしてくれない先生に「なに想像してんだ?」とイヤな顔でクツクツ笑われた

それがさらに熱を集め、私はガタッと大袈裟に立ち上がって「またね」と踵を返す



「ククッ…転ぶなよ、お姫さん?」

「もう!からかわないで!」

「はいはい」


ヒラヒラと手を振っていまだに笑う先生
キッと睨みつけてさっさと教室に戻ればもうひとつ忘れていたもの
いや、人



「……」

「あ、あの…そこどいて?教室に入れないじゃん」

「お前、どこに行ってた?」

「え、いや別に」

「ほぅ、俺様に隠し事とはお前も随分エラくなったな」

「ちっ」

「テメェ」


ああ、もう面倒くさい!
一体なんなのこの変態

教室の扉の前で仁王立ちしていたのは今朝よりもさらに隈を酷くさせたロー

こいつ、本当にやっかいだ


「今日、お前は俺と文化祭を回る約束をした」

「してない!ローが勝手に言ってただけ!てかさ、店番あるんだよ?あぁ!ローも店番じゃんサボってんなよ」

「今ここでそのうるせェ口、塞いでやろうか」

「……すまん」


ジーザス
今日何度目だろうか、私はやっぱり厄日のようだ


クラスメイトで親友のボニーに「ごめん、10分ほど抜けるね」と言えば横から隈野郎が「1時間だ」と私の言葉に被せてきた


「おお!いいぞー」と最初ばかりはそう言ったボニーもローの言葉に「テメェ、クソファルガー!あんま調子乗ってっとその隈切り刻むぞ雑魚が」ととんでもない口の悪さを発揮した


「おいお前、あんな奴と親友とかやめろ」

「うわ、すごいお節介だね」

「あの口の悪さ、女じゃねェな」

「バカだねロー、あんたはボニーの良さを分かっていない」


やれやれ、と大袈裟なリアクションをすれば急に手を掴まれる
この時期なのにやけに低いローの体温に一瞬ビクッとし、手を振りほどこうにもそうはさせてくれない


「ナンデスカ」

「カップルで文化祭巡りと言えば手を繋ぐだろ?」

「イヤイヤイヤ、ちょっと待て。私らはカップルではない勘違いするな」

「あ?」

「あ?って睨んでもムダですよ!さっ、さ、と、手を!離せっ!」



グググ、と引っ張ってもやはりムダ
こんなひょろい体のどこにそんな力があるのか不思議だ

てかこんな所をイゾウ先生に見られてはまずい、絶対まずい
考えればガタガタと体が震えてくる

ローは理解しているのか、そんな私の反応をクツクツ笑うように眺めながら「おい」と声をかけてきた


「今度はなに?」

「あれ食うか?」


あれ、とローが指差したモノは他クラスが出店している甘味処
その店前には売り込み品であろうオリジナル三色団子と書かれた看板


「た、食べたい!」

「フッ、待ってろ」


そう言うとローは私の手を離し、教室の中へ入ってしまう
私はすかさず繋いでいた方の手をゴシゴシとスカートで拭いた



「ほらよ」

「いただきます、ロー!」

「フフ、ああどうぞ」



ローから三色団子を受け取り頬張った
なんと中にはあんこも入っていて、あのクラス天才か!と歓喜した

もしゃもしゃ食べる私はやっぱり油断する
一度離れた手をまたもや掴まれてしまったのだ


「……」

「文句あるなら団子返せ」

「……ちっ」


まぁ、別にいいや
たぶん今ごろイゾウ先生はサボっていた代償で職員室にいるはずだ
あ、そう言えばエースはちゃんと会えたかな


三色団子を噛みしめていれば隣のローは少し屈み、私の手に持たれたソレをパクりと食べた


「っっ!なにしてんの!」

「……甘ェな」

「ちょ、ロー!調子に乗らな「おい」……で、よ?」



一番楽しみにしていた真ん中のヨモギ団子を食べられ怒り心頭の私はローにギャイギャイ文句をブー垂れた

ブー垂れていれば急に耳に届く「おい」の声

まさか、まさかまさか

よく聞き慣れたその声に私の体は一気に硬直する
ギギギ、なんて効果音がつきそうな勢いで顔を向ければ予想通りのイゾウ先生

しかも滅多に見れないほどに眉間にシワを寄せている



「せ、先生っ」

「なにしてんだ?」

「あ、これは」


落ち着け落ち着け、と心で唱える
とりあえずローに繋がれた手を振りほどこうとしたが、逆に力を込められてしまった


「俺らになんか用か?」

「なにをしているのか聞いたんだよ、ガキ」

「別になにも。あんたには関係ない」

「……その手を離しな」

「俺に命令するな」

「あ?」



やばい、
いつもは周りがドン引きするほど冷静な先生がローの挑発にはまっている

どうにかしないと、と思うものの私の口からは何も言葉が出ない



「まさか、校内恋愛禁止…だなんて言わねェよな?」

「ロー、いい加減にしな」

「ククッ、どっちにしろ、あんたに言われたくねェよ。なぁ…先生?」



さらにクツクツ笑うローと、それにイライラするイゾウ先生を、両者とも見れない私はただ俯いてジッと上履きを見つめるだけだった



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