作品2

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【2、瀬川】




「いらっしゃいませー」

文化祭開始の合図と共に賑わい出す校内。
ものの数分でやる気がないと指摘されてしまったが今日は厄日なんだ、と自分に言い聞かせる。
仕方ない、仕方ない。声出してるだけでも褒めてほしい。
そんな心の声は誰にも届くはずがなく、 徐々に忙しくなりつつある現状にさらにやる気が削がれていくのは私だけだろうか。

「なァ、イゾウ先生知らねェ?」

エースの言ったその言葉にハッとする。
そういえばイゾウ先生にたこ焼き持って行かなきゃだ。
忘れてた、なんてあの先生には通用しない。
その事がばれても後の仕打ちを想像しただけでゾッとする。
私は慌ててパックにたこ焼きを詰めた。

「担任のくせにサボりか?」
「エース、私が先生探してくるよ。たこ焼き渡さなきゃなんないし」

エースにそう告げると頼むなーと太陽の様な笑顔で見送られながら教室を出る。
サッチせんせーが来る前に持って来いって言われたけどいつ来るかわからないし、それにサボれるしラッキーなんて思っていたのも束の間、先生を血眼になって探さなくてはならない。
どこにいるのか検討もつかないのは厄介だ。
たこ焼きが冷めるのを覚悟で片っ端から居そうな教室を覗く。

「どこにいんのよ」

校内の空き教室に居ないという事はそういう事で。
心の中で舌打ちをし窓から外を眺める。
こんな人混みの中どう見つけろっていうのよ。
あーもう、また頭痛くなってきた。
なんて思っていると中庭の方に見慣れた人影を発見。

「…普通にいるじゃん」

踵を返しダッシュで階段を駆け下り中庭へ急ぐ。

「…先生」

乱れた息を整え簡単に見つかりました感を出しながら声をかける。
振り向いた先生は片手に煙草、もう片手に缶コーヒーとなんとも教師らしからぬ姿で飄々としていた。

「見つかったか」
「簡単に見つかったよ」

煙草を消しながらニヤニヤと此方に向かって歩いてくる先生。

「…ほう、じゃあこれはなんだ?」
「っ!」

私の首元をそっと撫で上げ濡れた指先を目の前でチラつかせる。

「はて、なんでしょう」
「とぼけてんじゃねェよ」

コツンと頭を叩かれクツクツと笑いながらそれを擦り付けられた。
自分の汗なのに先生がそんなことするから汚いとか思っちゃったじゃん。
擦り付けられたとこを払いながらブツブツと文句を言ってみたところで先生にはなんてことないんだろうな。
サッチせんせーならうるさいくらいのリアクションが飛んでくるんだろうけど。

「ま、いいさ。それより例のものよこしな」
「変な言い方しないでよ」

差し出された手にたこ焼きの入った袋を渡す。
これで私の任務は完了したし早いとこ戻らないと怒られそうだ。

「じゃあね。あ、あとエースが先生の事探してたよ」

食べたら来てよ。と付け加え踵を返したが腕を掴まれてつんのめってしまった。

「な、なに?私店番なんだけど」
「まぁいいじゃねェか。ちょっとぐらい」

そう言って引かれるがまま先生の隣に座らされる。
教師ともあろう人がサボりを強要するなんておかしくない?

「みんなに怒られたら先生のせいにしてやる」
「なら教室に戻りな。お前さんとたこ焼き食いたかったんだが、そんなに戻りたいなら好きにすればいいさ」

そんな言い方されたら残らざるを得ないだろうがコノヤロウ。
分かってて言ってるのかこの鬼畜教師は。

「…ちょっとだけだからね」

小さく息をついて座り直す。
イゾウ先生が持っているたこ焼きをひとつ食べながら、後半頑張ればいっか。とすぐさま頭を切り替えたのは黙っていよう。



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