作品2

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【1、ユキア】


「色褪せない様な思い出を。」





オハヨウが飛び交う朝。
人気の疎らな通学路で、
普段より重い荷物が肩に食い込んで痛い。
ボヤけた頭は慣れない早起きのせいだし
普段ならふて腐れてしまうだろう。

「ナツ!お前起きてるかっ?!」

「あー…うん、とりあえず煩いエース。」

バッタリ出会したクラスメイト。
ポートガス・D・エース。
普段から声がデカくて「元気」を体現したような奴

二日酔いってしたことないけど、多分こんな風に頭が痛くてたまらないんだろう。
寝不足の頭に、まるで右ストレートである。



「ヒデェ、こんなリフジンな朝は初めてだ……」

「だって、声デカイもん。エース、何でそんな元気なの?何時だとおもってんの?」


振り返ったら、エースが泣きそうな顔で
だけど右側の口端にパンくずが付いてて。
笑ってしまいそうなのを噛み殺し、
さっさと先に行く為に歩調を早めた。
多分、エースは目を見開いてるハズだ。







「オッハヨーゥ!!」


……次はなんなの?
頭が痛いというのに、後ろからバリバリと
裂ける様な爆音がして呑気な声に頭の痛みが
確実に2割増した。


「ナツー!!オッハヨーゥっつてんだよ。」


「……うん。……じゃ。」


「待てマテマテ!何だよ朝からっ。」


振り向いた其処に時代遅れのリーゼント。
ガシッと掴まれたのは重い荷物を担いでる肩で
思わず悲鳴をあげた。


「っ痛い」


「ぁ、わ、悪ィ!?大丈夫か?」


目の前で慌てふためくのが教師じゃなかったら
猛抗議していたと、明言しておこう。


「サッチのせいで肩痛い。」


「ゴメンって!悪気はねぇんだって。あ、あれだ!何なら乗っけてってやろーか?今ならそんなに人目にもつかねぇし。」


「……いいね、ソレ。」


ナナハンと通称される大型自動二輪。それがサッチせんせーの愛車で、学校の敷地に停まってるのをよく見かける為に変な愛着があることはナイショだ。


「ちょい待てな?今シート下からメット出すわ。」


本当はあってはイケナイ事をしている。
先生とニケツなんてきっと。
今が早朝だからこそサッチせんせーも
こんな事をしてくれるのだろうけど。


「に、してもあれだよなぁ。文化祭の出し物の為に朝からご苦労なこった。お前ら何やるんだっけ?メイド喫茶なら俺朝イチで行っちゃうよ?」


「「……たこ焼き屋。」」


__え?


「っ、ィゾウッ、せん、せっ?!」


当に“たこ焼き屋”って言おうとした私に被った声に
どうしてか背筋がヒヤリとして、声が裏返った。


「おー、イゾウ先生。早ェな、流石に今日は。」


「アァ、お陰で機嫌が悪ィ。……何してんだ?」


「ん?あぁ、いやナツがキツそーだからよ俺の愛車乗っけてやろうと思って。」


「……ヘェ、そりゃ本当か?ナツ」



「ゃ、……ぇっと、違っ」


「サッチ。済まねぇがコイツは俺が学校まで連れて行く。」


「は?」


「忘れたか?コイツの担任は俺だろう。生憎、今日の打合せもしとかなきゃならねェ。」



それ以上のやり取りは恐ろしくて
耳にも目にも入ってこなかった。
一体何時から後ろを歩いて居たんだろう。
さっきのエースを思い出して、焦る。



「じゃーナツ、後でな?ミホーク先生でも連れてタコ焼き食いにいくわー。」


下がり気味の眉を更に下げて笑ってから
手をヒラヒラ振った後で
また頭に響く爆音は唸るだけ唸って
一直線に学校の方角へ消えて行った。


「……行くぞ。」

「ちょっ、待ってよっ?!」


打合せもしないまま早足で学校まで。
何よ、サッチに言った事と違うじゃん!?
朝が弱いのか、それから一言も話さないで
随分と不機嫌な担任の顔を味あわされて登校した。



「朝イチイゾウは鬼畜過ぎ……」


「ナツ、」


「ひっ、ぃぃ」



校舎前で分岐点を迎え、ホッとしてぼやいた私に
急に話しかけてきたイゾウ先生様に
心臓の耐久性ギリギリのドッキリを食らう。
焦って振り返った視界にいつも通りのイゾウ先生。
それが私の頭を軽くポンポンと撫でた。





「無理すんじゃネェぞ。あとな、サッチやミホークにやるより先に俺にお前さん達のタコ焼き持って来な。」


「え、何処……に?」


「そりゃ、必死になって探しな。」

























「フッ、ヒデェ顔が今朝は更にヒデェな。」


「うるへーわ。」


「言い返す気力もねえか、全然可愛くないお前には丁度いいかもな。」


「……それ以上喋ったらその隈、マジックでなぞってやる。」



最早顔を上げたくない。
何でって?
更にテンションを根こそぎ持ってかれるから。


「学年一位が何のご用命で?トラファルガー。」


「ローだ。」

「(クソ)ロー、何の用?」



ガタッと頭の上で椅子が鳴らされ
驚いて顔を上げたら
ローが目を細めて此方を見ながら座っていた。



「今日の文化祭。……俺に付き合え。」


「っ、はぁっ?!」



「誘ったからな?……逃げるんじゃねぇぞ。」





あぁ、解った。
私きっと今日、
厄日なんだわ。





イゾウ先生を血眼になって探す挙げ句、
トラファルガー・ローこと、
学年で一番厄介なオトコに
目をつけられただなんて。





「……さいあく。」


疲れて突っ伏した教室の自分の席。
出店の用意をしなくちゃならないのに
まるで気力が湧かないのは、
絶対にイゾウのせいだと確信した。




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