天から舞い降りた小鳥

□6話 思い出の欠片
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初デートの後から、明音と頻繁に会うようになった。

レッスンや公演の合間には食事にいったり、一日オフの日には動物園にいったりと充実した日々が続いている。

俺は暇さえあれば時間を作り、明音と会うようにしていた。

明音も忙しい中、俺の為に時間を割いてくれる。



まるで恋人同士のようだが、当然そのような関係にはなっていない。

俺の記憶が戻らない限り、俺と明音は前に進めないような気がしていた。



そんな充実した日々を過ごし、今日も大学の講義を受けていると明音からのメールを受信する。



――今日の約束、ちゃんと憶えてる?



今日の約束というのは、一緒に名古屋ドームに行くことだろう。

自分では"ドームに行く"という発送は出てこない。

野球好きな明音ならではのアイデアだった。

俺は明音にメールを返し、講義に集中することにした。





楽しみが後に控えていると時間が経つのも早く感じる。

今日の講義は全て終了し、俺に自由な時間が訪れる。



携帯を取り出し画面を見ると、着信一件と履歴が残っていた。

珍しく講義に集中していたのか気づかなかったようだ。



着信履歴を見ると、それは愛李からのものだった。



愛李から電話があるのは非常に珍しい。

というかそもそも最近ではメールすらしていないのだ。



俺は不思議に思いつつも愛李へと電話を折り返す。



「久しぶり」



数回コールした後に声が聞こえる。

久しぶりに聞く愛李の声だ。



「雄吾君、最近全然連絡してくれないよね」

『別に愛李に用事無いからな、明音とはちゃんと連絡とってるぞ』

「むきー、君ってやつはホントに口が悪いね」



愛李は電話の向こう側で地団駄を踏んでいる、と思われる。



『で、どうしたんだ?』

「ん、何が?」

『"何が"じゃねぇよ、愛李から電話してきたんだろーが』

「あー、そうだったね、忘れてたよ」

『もう痴呆が進んでんのか?』

「人をお婆ちゃんみたく言わないでよ!」



所々で弄ってしまう為、話が中々前に進まない。

俺が茶々を入れるのが悪いのだが、明音も愛李も何故か弄りやすい。

親しみやすいというのは良いことだが、アイドルとしてそれもどうかと思う。



「明日って何の日か知ってる?」



落ち着いたところで、愛李が話を本題に戻す。



『明日?明日っていうと十一月二十九日か……』



俺は携帯を耳に当てたまま、頭を捻って考える。

愛李の言い方からすると恐らく誰かの誕生日。

そこまで考えると、俺の頭の中の引き出しから一つの答が導き出された。



『分かった、誕生日だな』

「そう、明日はちゅりの……」

『尾崎豊の誕生日だ』

「……はぁ?」



しばらくの沈黙の後、愛李の間の抜けた声が聞こえてきた。

何か変なこと言ったのだろうか?

確か尾崎豊の誕生日がその日だと思ったんだけど。



『違ったか?確か尾崎豊の誕生日だったと……』

「いやいや、尾崎さんの誕生日がいつだろうと関係ないですから!」



興奮した口調で話す愛李。

何故かちょっと怒り気味だ。



「十一月二十九日はちゅりの誕生日でしょーが!」
 
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