天から舞い降りた小鳥
□5.5話 雪の中の詩人4
1ページ/1ページ
話しに夢中になって結構な時間が経っていたが、隣にいるたかみなは飽きもせずに俺の話を真剣に聞いている。
……いや、ニヤニヤと不適な笑みを浮かべながら聞いていた。
「残念だったね、キス止められちゃって」
たかみなは嫌なところにツッコミをいれてくる。
そしてその顔が非常に憎らしい。
『その顔やめろ』
「えー、何で何で」
『気持ち悪いぞ、不快だ』
「ちょ、それマジな悪口!」
たかみなはからかうと面白い。
反応が新鮮で飽きないやつだ。
「ちゅりとの初デートは楽しかった?」
たかみなはわざわざ意地悪な表情に戻って聞いてくる。
『楽しかったよ、最後がなければな』
「最後って……」
最後にベランダで明音と話したこと。
明音にとって答えにくい質問をしてしまったこと。
「"また会えるか"ってやつね」
『あぁ、今思うと明音は明音なりに、悩んで苦しんで、それでも俺の為に笑顔でいてくれたんだよな』
「ちゅりの最後の優しさのつもりだったんだと思うよ」
俺の質問に一瞬だけ曇った表情をした明音。
すぐに笑顔を作って俺に答えてくれた優しさ。
そんな儚い優しさに、俺は気づいてやれなかったのが悔やまれる。
何も考えずに、自分の思いだけであんなことを言ってしまった自分が憎い。
「だいぶいいとこまで話してくれたね。最初の出会った時の話と違って、ちゅりとのデートなんかを話すのはやっぱり嬉しそうだね」
『……そうかもな、一つ一つが大切な時間だったからな』
俺は軽く微笑んで素直に答えた。
「雄吾がそんな顔するなんて珍しい」
自分ではどういう表情をしているか分からない。
たかみなの口ぶりからするとよっぽど珍しいのだろう。
「そんな優しい表情、私には見せたことなかったよ」
『今見たじゃねぇか』
「もー、またそうやって言う。でも雄吾が本当にちゅりのこと好きだったのが伝わってくるよ」
『今でも好きなんだけどな』
たかみなの表情が少しだけ曇る。
この想いが伝わることはない。
既に伝わっていたことを願うしか俺には出来ない。
明音と会って何かを話したい訳ではない。
今会ってもきっといつもと何も変わらない、他愛もない会話をすることだろう。
ただ明音の傍にいたい、そう思う。
「こうやって聞いてると、雄吾は本当に幸せだったんだな、って思った」
『そうだろ?』
「うん、雄吾だけじゃなくて、きっとちゅりも幸せだったよね」
『きっとそう思ってくれてるはずだよ』
俺は明音の笑顔を思い出す。
俺と一緒にいて満面の笑みを浮かべて、一緒に馬鹿ばかりやっていた明音の顔を。
「うん、やっぱり良い顔だ」
たかみなは何かを納得したように声を出した。
俺の表情も明音の笑顔につられて笑顔になっているのだろう。
「さぁ、そろそろ次を話してよ。こっからは絆が深まる大事な時間だったよね」
明音との絆を深める大事な時間。
人生で一番充実していた時間とも思われる時間だ。