天から舞い降りた小鳥

□2話 ハイタッチ
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十一月に入り、握手会に初めて参加してから一ヶ月が経った。

あの日以来、俺はどこかぼんやりとした毎日を過ごしている。

大学での講義もまともに聞けてやしない。

元から講義をちゃんと聞いていたかは怪しいとこだけど。



何にしろ、この一ヶ月間、俺の頭から高柳さんが離れることはなかった。



高柳さんの笑顔と涙を今でも思い出せる。

知りたい、高柳明音のことを深く知りたい。

何であのような行動をとったのか。

涙を流してまで俺に会いたかった理由は何だったのか。

人違いであるのならそれでも構わない。

ただ理由を知りたかった。



そう思っても、俺には高柳さんに連絡する手段が無い。

たかみなの連絡先でも聞いておけば良かった。

……何てのは少し図々しいか。

現状では街で偶然出会うという博打くらいしか手段がない。



「それなら公演見に行こうぜ」

『公演?』

「栄駅の近くにSKEの劇場があるんだ、そこでちゅりに会えるぜ」



講義後に清人に相談すると、思いがけない答が返って来た。

さすが清人、大学の講義よりよっぽど為になる。



『じゃあ早速今日の帰りに寄って行こうぜ』



栄なら帰り道だ。

こんな簡単に会える方法が会るなら最初から教えてくれればいいのに。



「バカ言うなよ、チケット当選してんのか?」

『チケット?』

「公演のチケットだよ、SKEも今や大人気アイドル。チケット購入も抽選、プラチナチケットだぜ?」

『……マジか、じゃあ行けねぇじゃんか』



清人が簡単そうに提案するものだから、行ったら会えるのかと思ってしまった。

そりゃそうだよな、世の中そんなに甘くない。

俺は頭を抱えながら代案を考える。

横目でちらりと清人を見ると、何故かニヤニヤしている。

……まさか、こいつ。



『清人!お前もしかしてチケット持ってるのか!?』

「さすが、察しがいいな。お前の想像通り俺は今日の公演に当選している、当然お前の分もな」



清人は自慢げに胸を張る。



「さすが清人様、じゃあ早速行こうぜ」



既に講義も終わっているし、後は栄に向かうだけだった。

俺は荷物を持って部屋を出て行こうとするが、清人は俺の後に続かず立ち止まったままだった。

何故動かないのか不思議に思い、清人の前まで戻ってくると、清人は黙って俺に手を差し出す。

そのポーズは俗に言う、金銭を要求するポーズだった。



『うぐっ……い、いくらだよ』

「一万円だ」

『な、高すぎるだろそれ!?』

「親友の為に先を見越して根回ししていた、俺への感謝の気持ちはないのか?」

『ちなみにチケット自体はいくらだ?』

「三千円だ」

『ぶっ!バカ言うなお前!チケットよりお前への感謝の気持ちの方が、二倍以上高いじゃねぇか!』

「別にいらないならいいんだぜ」



傲慢な態度の清人、上から清人とはこのことを言うのだろう。

確かに相手の立場の方が圧倒的に上だ、ある程度の要求は仕方ない。



俺は結局半額まで値切って、五千円を清人に渡し、栄へ向かった。
 
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