天から舞い降りた小鳥
□1話 涙の握手会
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『ん?握手会?』
「そう、SKE48の握手会だ!」
十月初旬。
古くからの友人である清人が、俺の家に足を踏み入れた瞬間に握手券と書かれたチケットを二枚取り出して俺に見せる。
「今度の日曜、一緒に行こうぜ」
『嫌だ、面倒くさい』
「超冷めてる!」
何故だか凄くハイテンションな清人。
人混みは嫌いだし、そもそもSKEのメンバーを俺はまったく知らない。
「何でだよー、いこうぜー、チケットやるからさー、タダで可愛い子と握手出来るんだぜ?」
『だって俺、SKEとかよく知らないし……』
「だからこそ握手会に行って、推しメンを作るんだよ!」
いつになく食い下がる清人は、熱いパッションで俺を煽りながら家に上がりこむ。
そもそも推しメンって何だよ。
「社会勉強だと思ってさ」
社会勉強か。
そう考えれば面白いかもしれない。
基本的に出不精な俺は、この類のイベントには当然参加したことがない。
行かなかったとしてもどうせ家で寝ているだけになるだろうし、ちょっと気晴らしに付き合ってやるのもいいかもしれない。
『まぁ、一回くらい行ってみるか』
「おぉ!ホントか!さすが雄吾!」
『バカ……声でかいんだよ』
俺は耳を押さえながら清人を制する。
『でも何でそんなに執拗に俺を誘うんだよ』
「仲間が欲しいじゃないか、一人で追っかけするのって結構寂しいんだぞ」
『ふーん、そんなもんかねぇ』
「それよりお前、全然SKEのこと知らないんだろ?」
『名前くらいしか知らないな、AKBとSKEとNMBは全部一緒に見える』
「AKBはアキバ、NMBは難波、そしてSKEは我らが地元の栄だ!」
『まんまだな……』
「とりあえずこのバイブル達を置いていくから日曜までに予習しとけよ」
清人のバッグからは次々に本とCD、そしてDVDが出てくる。
一つ一つを手にとって眺める。
きんぎょ……パレオとエメラルド……マジカルラジオ……さっぱり分からない。
『ってかお前は何でこんなもん持ち歩いてるんだよ』
「お前に貸す為だ」
『俺がついて行くかどうかも分からなかったのに?』
「1%でも可能性があるなら、俺は努力を惜しまない」
名言が出た、清人が神々しく輝いて見える。
方向性は合ってるか間違ってるのか分からないけど、情熱のかけ方は半端ない。
清人をこれだけ熱くさせるんだから、この48グループには何かがあるんだろう。
俺は清人から受け取った写真集を見てみることにした。
やっぱりアイドルって凄い、どの子を見ても可愛い。
日曜の確約が取れた清人は、満足気な顔で帰っていった。
そして俺は渡された品々にまったく触れることなく、当日を迎えたのだった。