天から舞い降りた小鳥

□0.5話 雪の中の詩人1
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雪が降っている。

まだ十二月になっていないというのに、雪は深々と降っている。



その雪に身体が触れても、俺はその冷たさを感じることが出来ない。



「雄吾、今幸せ?」



隣にいた女性から問いかけられる。

俺はその質問に即座に答えることが出来ず、ただ黙ってしまう。



「難しい質問だったかな、ごめんよ」

『別に謝る必要ないけど』



女性は俺に謝罪するも、その表情は一向に変わらない。

柔らかい、女性らしい笑顔だった。



『俺は充分幸せだったよ』



その顔を見ていたら、自然と言葉が出ていた。



『幸せには定義ってもんがないからな、はたから見たら今の俺は不幸なのかもしれない』



女性の質問は確かに難しいものだった。

幸福なのか、不幸なのか、それを判断するのは非常に難しい。

他人にとっては幸せなことも、自分にとっては不幸なこともある。

悩んでいても正解は出てこないと思う。

正解なのかどうかは分からないけど、自然と出てきた"幸せだった"という言葉は俺の中の答だったのだろう。



『それでも、俺はやっぱり幸せだったよ』

「そっか……それなら良かったよ」

『大切な人と一緒にいることが出来たからな』

「それはすごく幸せなことだよね」



女性は笑顔で俺の答えに同意してくれる。

見ているだけで救われる、そんな笑顔だった。

聖母マリアなんかはこんな感じだったのだろうか。



「良かったら聞かせてよ、雄吾とあの子の話を」

『大体知ってるだろ?』

「でも、雄吾の口からちゃんと聞いた方がいいじゃん、その時の感情たっぷりに」

『まぁ別にいいけど、最初からか?』

「うん、全部聞かせてよ、私の責任でもあるんだから」

『長いぞ、長編サスペンスだからな』

「あはは、せめて恋愛ものにしなって」



雪はさらに強さを増しているが、不思議と寒さは感じない。

女性は笑顔で俺の話を待っている。

その期待に応え、俺は詩人のように大切な人との思い出を語り始めた。
 
 

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