チョコの奴隷

□5話 いつも通りの日常
1ページ/2ページ


「おはよー」

『おっす』



二月十五日の朝。

昨日の出来事がまるで何も無かったかのように、珠理奈はいつものように通学路に立っていた。



「昨日はちゃんと寝れた?」

『色々あって疲れたから、一瞬で寝れた』



珠理奈が走り去っていった後、玲奈先輩を置いて俺も走って珠理奈を追いかけたが、珠理奈に会うことが出来なかった。

珠理奈の家の前についた時、インターフォンを鳴らす勇気は俺には無かった。



『そーいやチョコ、うまかったよ』

「チョコ?何のこと?」

『…へ?だから昨日お前に……』

「あー、玲奈ちゃんから貰ったチョコか、美味しかったなら良かったね」



珠理奈は笑顔で俺の言葉を遮る。



『いや、玲奈先輩のじゃなくてお前の……』

「ちゃんと玲奈ちゃんにお礼言わないとダメだよ」



またしても笑顔で俺の言葉を遮る。

昨日のことなど何も無かったかのように、作り笑顔でただ俺を見つめる。

その顔が妙に怖いと感じる。



「そんなことよりもうすぐ期末テストだよね、ちゃんと勉強してる?」

『俺がちゃんと勉強してると思うか?』

「だよね、あはは」



今度は見慣れた本当の笑顔で笑っている。

いつも通りの日常だった。



「このままじゃまた遅刻しそうだね」

『……だな。学校まで勝負するか?』

「負けたらお昼の学食おごりね、よーいドン!」



珠理奈は自分でスタートの合図を口にすると、そのまま学校へと走り出す。



『ちょ、卑怯だぞ!』



俺も慌てて珠理奈の後を追いかける。



「勝てばいいのよ、勝てば」



珠理奈は笑顔で俺の方を振り向いて応える。

いつもと何も変わらない、普段と同じ珠理奈だった。






昨日はチョコの奴隷となった一日だった。

ちょっと甘くて、ちょっとほろ苦い一日。

玲奈先輩のこと、そして珠理奈のこと。

珠理奈が昨日、何を言いかけていたのかは想像出来る。

それでも今日こんな態度をとっているのは、きっとこの日常が終わってしまうのを心配しているんだろう。

珠理奈はまだ俺が玲奈先輩のことを好きだと思っているのだろう。

俺は玲奈先輩が好きだけど、それは恋と呼べるものではなかった。

玲奈先輩の女性らしさだけど見てそれを恋と勘違いしてしまい、恋することに憧れていただけだった。

かと言って、珠理奈のことが好きなのかは自分でも分からない。

ただ、珠理奈が隣で笑ってくれている、そんな日常が何より大切だった。




この気持ちが恋と呼べるよう日がくるのだろうか。

今日なのか、明日なのか、それとももっと先のことなのかは分からない。



FIN
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ