チョコの奴隷

□3話 集中出来ない
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本日最後となる英語の授業の時間。

睡魔が襲ってきていて、授業の内容が頭に入ってこない。

英語の担任の戸賀崎が話す言葉はまるでお経のようで、睡眠不足の俺にはそれに抗う術は無い。



「ちょっと雄吾、寝ないでよ」



隣で誰かが何か言っている気がする。

この声は誰だろうか。



「ちょっと雄吾、寝たらダメだって」



その瞬間俺の腕に針で刺されたような痛みが走る。

やっとのことで俺は声の方を向いた。



「あんたが寝たら戸賀崎がこっちに来ちゃうじゃない」



小声で俺に話しかけているのは隣の席の珠理奈だった。

手にはシャープペンシルを持っており、それで俺の腕を刺したのだと分かる。



『別にいいじゃねぇか』

「嫌だよ、当てられたら困るもん」

『じゃあ何か眠気を飛ばすくらいの極上のダジャレを頼む』

「ちょ、急に言われても……」



珠理奈は俺の無茶振りに困った顔をしているが、何かを考え始めた。

律儀なヤツだ。



「え、英語の授業を受ける時は、A5のノートを使おう」



咄嗟に考え、ちゃんとリクエストに応えるその姿勢は素晴らしい。

しかし俺の手元にはA5のノートはない。



『30点』

「え、超辛口じゃない」

『だってA5のノート持ってないし』



つまらないダジャレではあったが、珠理奈のお陰で目的は達成された。

話していることで俺の眠気は覚めてきたのだ。




しかし珠理奈の目的については達成されることはなかった。

俺の机が急に影を帯びる。

視線を上に移すと、そこには戸賀崎が英語の教科書を丸めて俺と珠理奈を交互に見下ろしていた。



『テ、ティーチャー戸賀崎』

「ハ、ハロー」



隣の珠理奈も俺に合わせてか英語で挨拶している。

ハローとか言ってる場合じゃない状況だ。



「そんだけ英語が喋れるならあの問題も解けるんだろうな?」



戸賀崎は丸めた教科書で黒板を指す。

そこにはチョークで書かれた意味不明のアルファベットが並んでいる。

逆立ちしてもその答えは出てきそうにない。

俺は助けを求めようと珠理奈に視線を移すが、珠理奈の目も死んだ魚のような目をしていた。
 
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