不器用な僕達
□episode1
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春。
出会いと別れの季節。
今年、秋羽(アキバ)大学に入学する新入生たちにはその言葉が似合う。
しかし、俺のような大学三年生にはその言葉は適していないだろう。
大学の正門から校舎へと続く桜並木。
この綺麗に舞い散る桜だって、俺のためではなく新入生のために咲いているのだろう。
舞い散る桜の花びらを手に取り辺りを見回す。
そんなこの季節の主役たちは豊かな表情で桜並木を歩いている。
期待に胸を膨らませた笑顔の新入生や不安から曇った表情の新入生、期待と不安が入り混じった複雑な表情の新入生もいる。
俺も二年前はこのアキバの新入生だったのかと思うと、どこか懐かしく感じる。
もっとも、その頃の俺は今見た新入生たちみたいに豊かな表情ではなかっただろう。
後から友人たちに聞いた話では、この世の終わりを見たような表情だったらしい。
「よ、久しぶり」
新入生たちを眺め、昔を懐かしんでいると声をかけられた。
その声は友人の笠田雅人だった。
雅人とは大学一年の時に出会い、それから多くの大学生活を共有してきた。
明朗闊達な愛すべきバカ。
この表現が一番的を射ているはずだ。
「久しぶり、元気だった?」
「元気元気!元気すぎて分けてやりたいくらいだよ」
「毎度のことだけど、大学の春休みって長すぎるよな」
俺の愚痴に同調するように、何度か頷く雅人。
「ところで何見てたんだ?」
「ん、別に」
「可愛い子でもいたか?」
「バカ、お前と一緒にするなよ。新入生を見て昔を思い出してただけだよ」
「昔を?ジジイじゃないんだからまだ懐かしむには早いんじゃないか」
そう言って俺を馬鹿にしたように笑う雅人。
「俺はてっきり噂の新入生を探してるのかと思ったぜ」
「噂?」
噂の新入生?
何のことか分からず、俺は雅人に聞き返すしかなかった。
雅人は俺の言葉に嬉しそうに反応し、ピエロのように口角を上げてニヤりと笑う。
「や、お二人さん」
雅人が口を開きかけた時、俺たちの後方から女性の声が割って入ってきた。
この声を忘れるはずもない。
俺は声の方向に向き直り、挨拶をした。
「優子、久しぶり……でもないか」
「あはは、全然久しぶりじゃないよね、結構会ってたし」
俺の挨拶に笑って答えたのは大島優子。
雅人と同じく、大学一年の時に出会った友人だ。
優子と雅人の二人とはいつも一緒に行動している気がする。
俺の大学生活に、優子と雅人の二人は必要不可欠と言っても過言ではない。
「結構会ってたって……お、お前ら俺に内緒でいつからそんな仲に!?」
結構会ってた、という優子の言葉に反応して騒ぎ出す雅人。
期待を裏切らず、しっかりと勘違いをしてくれる雅人に尊敬の念すら抱く。
「付き合ってんなら言ってくれたらいいのに……」
とは言え、尊敬して否定もせずにいると、話がどんどんと勘違いの方向に向かっていってしまう。
早く否定しておかないと面倒なことになりそうだ。
「バカ、俺と優子がそんなふうになるわけないだろ。俺にだって選ぶ権利があるよ」
「ほほぉ、言ってくれるじゃん修也」
優子はおもむろに自分の豊満な胸を両手で持ち上げ、悩ましいポーズで女豹のように俺を誘う。
「このグラマラスボディの優子さんを見ても、そんなことが言える?」
「あぁ、問題なく言えるね」
俺は優子の努力を一蹴する。
「ちょ、もうちょっとかまってくれたっていいじゃんか!」
「そのノリは無理だ、スマン」
「ふ、普通に謝られるとショックが倍増するなぁ……」
俺が両手を合わせて謝ると、優子は肩を落として落胆した。
喜怒哀楽の激しい優子を弄るのはいつだって楽しい。