チョコの奴隷

□1話 憧れの人と幼馴染
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『お疲れ様です』



俺の挨拶と共に、最後まで残っていた先輩が部室を後にする。

レギュラーは俺を除くと、残りは全て三年生。

練習で遅くまで部室に残るレギュラーメンバーの中では唯一の二年生となる俺が部室の施錠の役目を担う。

俺はいつものように部室全体を見渡し、忘れ物がないかを調べて部室を出ていこうとした時、入り口のドアが開いて誰かが入ってきた。



「あ、良かった。まだいたんだね」



その美しい声を聞いただけで俺の心は躍る。



『玲奈先輩、どうしたんですか』

「ちょっと雄吾君に相談があって」



玲奈先輩の表情は真剣そのものだ。

何だろう、そんなに改まって。



「あのね、明日バレンタインでしょ」



玲奈先輩の”バレンタイン”という言葉に反応する。

当然意識はしていたけれど、俺はそんな素振りを見せずに惚けて言葉を返す。



『そう言われてみれば……だけど、それがどうかしたんですか?』

「あの、雄吾君って誰かからチョコ貰ったりする?」



何だろうか、この急展開は。

もしかして玲奈先輩、俺にチョコを……。



『いや、あの、昔は貰ったりしてたけど、高校に入ってからはまったく』



緊張してうまく喋れない。

俺はつたない言葉で何とか言葉を捻り出した。



「そうなんだ?雄吾君モテるからいっぱいチョコ貰ってるのかと思ったよ」

『モテる?俺が?』

「うん、結構三年の女子から人気あるんだよ」

『またまた、嘘ばっかり。その手にはひっかりませんよ』

「ううん、嘘じゃないよ」



俺は玲奈先輩の言葉が信じられなかった。

そんな噂もなければ、体験もない。

それにしても何でそんなことを聞くんだろう。

玲奈先輩、俺が誰かにチョコを貰うのを心配してるのか。

それってつまり嫉妬?

俺の脳内会議は勝手に良い方向へと進んで行く。
 
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