AO-EX

□降りそそぐ花びらのような
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 <降りそそぐ花びらのような>


 それは花びらのようだった。

 彼が欲しがっているときは、燐にもすぐわかる。
 指先は冷えていて、でも中に熱い血が流れているのがわかるのだ。
 秘め事をささやくようにその声はかすれている。
 あるいは水を欲しがるように飢え渇いて。
 早く満たしてやろうと来い来いと呼ぶ。

 ようやく彼が欲しいものに辿り着き、ほっとすると、今度は与えられるのは自分の方。

 艶やかな紅の、花びらが降り積もるように。

 ひたすら注がれる想いは溢れていきそうで、とまどう。大切なものだとわかっているから、少しも無くしたくないのだけど。
 愛おしいと思う心、欲しいと願う心の全てを受け入れてきたけれど自分はまるでそれに溺れそうになっている。
 返せたらいいのに、と初めて思った。
 同じだけ、返せたらいいのに。きっと、喜んでくれるんじゃないだろうか。

 燐にとって雪男の喜びは自分の喜びだ。

 初めて自分からしたキスは、もうそのあと離れたくなくなるほど夢中になった。
 もっともっとと願って一つになって、想いも願いも体も全部一緒になった。
 溶けるよう、というのはこういうものなのか。
 ぼくも、初めてだ。と雪男が言ったので、いいな。と言った。
 これ、いいな。幸せっていうのかな。
 ふわりと笑う彼自身が花のようで。
 そうだね。すごく幸せだ。雪男も笑った。

 指を悪戯のように絡めたまま、あどけない口調は愛らしく。
「覚えていたいなぁ…」
「うん。お願いだ、どうか覚えていて」
「覚えてる…」
 どうか未来まで、貴方が一人ではないように。
 心の奥の記憶をたぐれば、僕がいるように。

 愛している、ずっとずっと。

 愛を込めた花びらに埋もれて、いつか貴方が静かに眠るときまで。


 (…end)


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