トリコ

□プラトニックラブと言い張ってみた。
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 気付けば、そいつの事ばかり考えている。その姿を目で追っている。心臓の辺りが、まるで鉛でも抱えているように重苦しい。……なんて、周りの奴らに好きになったらどうなるかを聞けば、そんな色で例えるならピンクな回答が返ってきた。思わず、顔をしかめてしまった。
 じゃあお前はどうなんだ。聞かれて俺は、分からねぇと言った。それを聞いた奴らは呆れたような表情で、早く好きな女見付けろよと笑った。

 余計なお世話だ。

 好きな女はいなかったが、苦労した覚えはない。いわゆる不良って事にブランド思考が騒ぐのか、女は向こうから寄ってきた。遊びでいいなら、付き合ってやるよ。大抵は目を見開いて数秒後、泣き出す。が、強気な奴はそれでもいいと同意する。けれど、すぐになにかしら文句を言って去っていく。周囲の評判も更に悪くなる。だが、俺は始めに言った筈だ。お前の事は好きではないが、遊びでもいいというのなら、お前が望む関係になってもいいと。勝手だと思われるだろうが、俺が相手を好きになる前に、相手がもう限界だと去っていくのだ。それを繰り返している俺が、好きな女を見付けられる筈もない。見付けようとする気持ちすらなかった。
 だが、いくら俺がそう考えようとも周りはお構い無しだ。もういい加減面倒になって、女からの誘いに乗ることも止めた。が、休み時間の暇な奴らはそういう類いの話しかしない。一体、何が楽しい。俺はいつの間にか、教室に入る事が億劫になっていた。

 教室の扉に手を掛けたが、止めた。鞄を肩にかけたまま廊下を進み、階段を登っていく。チャイムが鳴ったが知るか。久々に屋上にでも行って、適当に時間が経ったら帰ろう。屋上の重い扉を開ければ、ぶわりと風が身体を撫でた。時間帯によってはカップルがいちゃついているフェンス際、そこに腹立たしい奴らがいない事を確認し、俺はフェンスへ背を預けた。かしゃん、頭を寄せれば音が鳴った。空は雲一つない晴天、とは言い難く、淀んだ色の雲が一つ空の青を汚していた。

「きったねぇ色」

 特にそう感じた訳でもないが、暇をもて余す為に呟いた。その声もすぐ風に流され、ひゅうと吹く音以外は何も聞こえない。…俺は、何してんだろうな。

 元は、誤解を与えるような真似をしていた俺が悪い。そう思ってはいるが、本当に非はこちらだけなのだろうか。俺は、嫌いだとも好きになれないとも言っていない。すぐに相手を好きになれる筈がないだろう。ただ、もう少しだけでも待っていて欲しかった。いや綺麗事か。誰一人として好きになれなかったのは事実だ。

 ふいに溜め息をついた。すると突然、開きっぱなしにしていた扉が乱暴に閉まる音がした。見れば、扉を閉めたであろう男が、振り向いた俺にへらりとした笑みを向けていた。

「女ったらしのボギーじゃん。久しぶり」

 そいつはつかつかと歩いてきて、面倒な事に俺の前で足を止めた。座った俺を見下ろしている顔を睨みながら、俺はそいつの名を呼んだ。

「……セドル」

 何しに来た、というのは愚問だろう。俺も特別な理由があった訳ではない。昔から屋上でたむろしていた俺とセドルだ。どうせ、授業を抜け出してきたのだろう。暇な奴だ。

 
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