創作
□春よ来い
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大人の身長より頭一つ分ほど高い位置にある梅の木。目にも鮮やかな薄紅梅の可愛らしい花を、真っ青な空の下、満開にしていた。
その木の根元には背丈の小さな少女が一生懸命に手を伸ばして、風に吹かれる花吹雪を掴もうと飛び跳ねている。
少女に呼びかけると、くるり、とバレエのように回って見せ小首を傾げさせる。鼻の頭に梅の花びらを乗せていた。
こっちにおいで、と手を拱けばテコテコと仔猫のように寄ってくる。
頭を撫でながら花びらを取ってやると、それを欲しがったので、
―――――――――これは栞にしようか。
そう提案すると少女は頭を縦に動かし、肯定の意を表した。
節くれだった老人の手が少女の頬を撫でる。
老婆がニコニコ笑いながら、お茶菓子の乗った盆を持って縁側へとやってきた。
私が幸せだったころの、夢である。
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