dream

□第5話
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練習が終わり飯を食った後、自主練しようと倉持と寮の裏を歩いてる時だった。
前方からフラフラと歩く影が何か話しかけてきた。
時間は8時を過ぎている。
「こんな時間に誰だよ?」と思っていると、どうやらうちの制服を着た女子だった。
暗いとはいえ、寮から漏れる明かりや外灯などでその姿はハッキリ分かる。
うちのマネージャーではないと気づき、野球部の熱狂的なファンがこんな時間までいたのかと思ったが、どうやら違うようだ。
一目で迷子だと分かるくらい、少し疲れたようでボロボロになっていた。
まだ真新しい制服、着慣れていないその姿は新入生感を醸し出している。

「(広いとはいえ、今まで迷ってたのか?)」

倉持も同じように思ったらしく、心配しながらもかなり笑っていた。
こんなどんくさい新入生をそのまま放っておく訳にもいかず、とりあえず本人が分かる所まで送って行こうと思い促すも、遠慮してるのか『校門までの道程を教えていただけたら……』と言っている。

いや、教えた所で無事に校門まで辿り着けるか謎だろ?

今日、新入生は入学式のみだったハズ。
すでに部活に入っているのなら別だが、仮にそうだとしてもこんな時間までこんな所に制服でいないだろう。
手荷物は学校指定の鞄のみ。
スポーツ推薦で寮生だったら、すでに寮のいるはず。
やはりずっと迷ってたんだろう。

「(しかし、こんな時間まで迷ってるって……)」

心細そうに歩いていた姿はまさに『迷子の子猫ちゃん』で笑いたくなるのを堪え、送る為に歩き出す。
が、倉持は亮さんに呼ばれてるとかで 「ちゃんと御幸に送ってもらえよ」と新入生に声をかけていた。
その倉持に対してあまりにも素直に頭を下げてお礼を言う新入生の姿に、俺も倉持も少し驚いていた。

迷っていたから声をかけただけ。
しかも送ってやれない状況なのにそこまで丁寧にお礼を述べるのか?という倉持の心境……だろう。

まぁなんというか、素直なんだろうなぁ。
子猫ちゃんだけに純粋ってことか?

自然と頬が緩むのを感じながら倉持と別れ、校門へと歩き出す。
隣を歩いてる新入生の『子猫ちゃん』と他愛ない話をしてると、ふと昼間見かけた新入生と重なった。

あぁこの子、あの子だ。

HRが終わり部活に向かうため外を歩いていた時。
『あっ……』という声が聞こえ、無意識にその声の元へ目を向ける。
2階の一年の教室。
窓際の後ろの席。
目が合った新入生の女の子は驚いた表情をしていて、次の瞬間には教卓の方を見ていた。
おそらく担任に注意されたのだろう。
情けない顔して小さくなる姿が面白くて見ていた。
それに気づいた倉持が「知り合いか?」と聞いてきたが「違うけどおもしれぇ!」と言うと「キメェ〜!」と言われた。

そう、あの子だ。
ははっ おもしれぇな、この子。

1日に2度も彼女の失態に出会すとは。
気の毒というかなんというか。
まぁ、俺としては面白いんだけどな。

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