long dream@
□光
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蔵馬の耳元に顔を近づけた爆拳は、さらに言葉を続けて囁く。
「あんなに泣いてもらってよ、さてはお前あの女に既に手〜つけてんのかよ?」
囃すように爆拳が問うが、蔵馬は無反応だ。
「チッ…まあお前のお下がりでもいいや。オレが“未来ちゃん”を楽しんだ後、どっかに売り飛ばしてやるよ」
全身の血が逆流したように、カッと熱くなる蔵馬の体。
乱れた髪の隙間から、爆拳を鋭い瞳で睨み付ける。
「お?なんだよその目は…」
「蔵馬を離して!!」
ニヤニヤ笑う爆拳を遮って、リングに駆け寄り叫んだ未来。
蔵馬は泣き続ける未来の姿を視界におさめた。
そんな顔をさせたくなかったと、蔵馬の中で苦い思いがうずまく。
「ちょうどいいな、彼女のお出ましだ。あの子の目の前で、顔面グズグズにしてやるぜェェェェ!!」
「やめろ爆拳!」
蔵馬の顔を殴ろうとした爆拳に、吏将の制止が入る。
「吏将!なぜ止めた」
「殴ればお前はやられていた。後ろを見ろ」
爆拳が後ろを振り返ると、霊丸の構えをとった幽助がいた。
幽助の瞳は真剣そのものである。
「奴は本気だ。大会ルールを無視してこの会場の妖怪全てを相手にすることになっても霊丸を撃っただろう。我々の目的は勝ち残ることだ。無駄な殺し合いをする必要はない」
爆拳は吏将の諭しを聞くと、さも気にくわないというように、ぺっと唾を吐いた。
「甘いぜ吏将。いや凍矢も画魔も陣もだ。邪魔な奴は全部殺せばいいんだよ。まあいいこいつは返してやる!」
至るところから血を流しボロボロの蔵馬を、爆拳は幽助に放り投げる。
「未来、蔵馬を頼む」
蔵馬を未来に託すと、幽助はリングに上がっていった。
「蔵馬、大丈夫!? 蔵馬あ…」
蔵馬の命が助かった安堵から、また未来の目には涙が溢れだす。
「未来、もう泣かないで」
しゃくりあげる未来に、蔵馬はどうしていいか分からなくなる。
自分のことで人がこんなにも泣いてくれているのを見るのは、千年以上生きている蔵馬でも初めての経験だったから。
「未来、笑ってよ」
困り果てた蔵馬が懇願する。
思いの外未来の涙に動揺している自身に驚くと同時、芽生えていた望みに気づかされる。
笑顔にしたいと、未来の笑顔を守りたいと思う。
どうやら彼女の存在が大きくなっていたのは、飛影だけではないらしい。
己の気持ちには鈍感だった自分に、蔵馬は笑ってしまった。
「なんで蔵馬が笑ってるのよ〜」
未来が泣いた原因である張本人の蔵馬は笑っているのに、自分は涙が止まらないという状況が滑稽に思えて。
未来は若干蔵馬を責めるような口調で言う。
「いや、なんでもないんだ」
蔵馬は未来の頬に流れ落ちた涙をすくうと、また優しく微笑んだ。
(…なるほどな)
その様子を遠くから見ていた凍矢。
蔵馬の光が何なのか、分かった気がした。