long dreamB

□Family
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裏女の口から普段の黒装束を着てリビングへ現れた飛影は、ちゃんと靴を脱いでいた。口を酸っぱくして土足厳禁を言い渡した甲斐があったと、未来は胸を撫で下ろす。


「実物は写真よりイケメンね!」


「飛影くん、いらっしゃい。よく来てくれたね」


ナマ飛影に興奮している様子の未来母と、自分の目線より遥か下に頭のある娘の彼氏に、ちっさ!と思わず心の中で叫んだものの決して表情には出さなかった未来父が、飛影を熱く歓迎した。


「つまらんものだ」


「まあ、飛影くんありがとう!」


未来の両親を前にしても飛影は動じる様子なく、いつもの仏頂面で持っていた紙袋を二人へ差し出した。
満面の笑みで手土産を受け取った未来母は、お茶を入れてくるわねとキッチンへ向かう。


(つまらんものだじゃなくて、つまらないものですがって言って渡すんだよ飛影!)


父親の顔色を窺いつつハラハラしながら未来が心の中でツッコむが、まあ及第点だろう。
手ぶらでも母親は全く気にしないだろうが、父親からの印象を良くしておくために、飛影に手土産を持参するよう予め未来は根回ししていたのだった。


「ひ、飛影くん、立ち話もなんだからソファに座ったらどうだい」


飛影よりよっぽど緊張している様子の未来父に勧められるがまま彼がソファに座ると、キャンキャンという鳴き声と共に小さなふわふわの球体が二つ、部屋の奥から走ってきた。


「すごーい!飛影、好かれてる!」


「なんだこいつらは」


尻尾を振って膝に飛び乗ってきた一匹と、足元で駆け回っている一匹の騒々しさに飛影が眉を寄せる。


「ユウとコイだよ。うちで飼ってるトイプードルなの。言ってなかったっけ?」


茶色い方がユウで、黒い方がコイだと未来が説明すると、そういえばそんな話聞いたなと飛影は思い出した。一匹の名前は幽助に似てるなという感想を抱いた覚えがある。


「お父さんが特に溺愛してるんだ!」


「あ、ああ」


人見知りする愛犬がめちゃくちゃ飛影に懐いている光景に眼鏡の位置を直し、目を丸くして驚いている未来父が娘に同意する。


「飼いたがったのはお兄ちゃんだけど、結局一番可愛がってお世話してるのはお父さんよね。それにしてもすごいわ、ユウとコイが初めての人にこんなにすぐ懐くなんて!」


永瀬家は父、母、一人暮らしをしている大学生の兄、未来、ユウ、コイの四人と二匹の家族だ。
キッチンから未来母もすごいすごいと感嘆するが、いまいち飛影はピンときていない様子である。


「きっと飛影くんが良い人ってわかってるのよ〜。ねっ、お父さん!」


「あ、ああ、そうだな」


「ユウ、コイ、そろそろ離れな。飛影困ってるよ」


窓を開けて未来が二匹を誘導すると、犬たちは庭へ駆けていく。
追いかけっこして庭で戯れている二匹を眺めながら、四人は未来母が入れてくれたお茶と、飛影が持ってきた焼き菓子をリビングのローテーブルで囲んだ。


「飛影くんは未来の命を何度も助けてくれたそうだね。ありがとう。何回礼を言っても足りないくらいだ」


全員がリビングに揃うと、未来父が改まって飛影へ礼を述べた。
一人異界の地へ行ってしまった大事な娘を守ってくれたという飛影に、彼は深く感謝しているのだ。


「そうよ、私たち飛影くんにとっても感謝してるの。本当にありがとう」


「礼を言われるようなことじゃない」


淡々と表情を変えずに飛影が応える。
未来を守るのは当然のことだったと、本心から思っている。そう感じさせる反応だった。


「飛影にとっては大したことなかったかもしれないけど、私はすごく救われたの」


おだやかに目を細めた未来が、隣に座る飛影の手をそっと上から包めば、初めて彼の表情が変化した。


「あらあら、未来は飛影くんにベタ惚れね!」


ゴホン!という父親の咳払いと母親の冷やかし声に、飛影と見つめ合っていた未来がハッとして彼から手を離した。


両親の前で二人の世界に入ってしまったことを恥じる未来は、無言でカップに口をつける。
ふんわり未来に微笑まれて、みっともなく心臓が揺さぶられた自身に心の中で舌打ちする飛影も、気まずそうに彼女から視線を逸らした。
 
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