long dreamB
□Family
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未来が大学に合格し、お祝いムードいっぱいの永瀬家。
ドキドキの日を迎えた未来は、リビングの真ん中で仁王立ちして両親へ最後の念押しをしていた。
「ほんと飛影に失礼なことしないでよね!」
「わかってるわよ。飛影くんは妖怪で、私たちの文化と違うからそれを尊重してあげてって話でしょ?無口で無愛想だけど、とっても素敵な人なのよね」
耳にタコができるくらい何回も娘から聞かされていた母親が、キッチンを掃除する片手間に返事する。
目鼻立ちが娘の未来と似た、オシャレで溌剌とした可愛らしいママだ。
「そう。敬語とかいう概念も飛影にないからね」
「いいじゃない、フランクで!」
ウェルカムだと快活に笑った母親に対し、リビングのソファで腕を組み座っている父親は、落ち着かない様子でやや難しい顔をしている。
「あ、お父さん、飛影に背が低いねとかデリカシーないこと言わないでよ」
「言うわけないよ、そんなことしかも初対面で!」
娘に釘をさされた父親は、そんなに信用ないのかとショックを受けた顔で、心外だと主張する。かけていた眼鏡がずり落ちる勢いだ。
「そう思ってるけど、一応ね」
「あら、飛影くんは背が低いのを気にしてるの?身長なんてどうでもいいのにねえ、大事なのはハートよ!」
「気にしてはなさそうだけど、いきなり背のこと言われたら良い気はしないと思うから」
家族に会おうとあの飛影がしてくれたことが、未来はとても嬉しくて。
今日、絶対に飛影に一瞬たりとも嫌な思いをしてほしくなかった。
「うちに来てよかったって飛影に思ってほしいんだ」
「未来……」
眼鏡をかけた優しそうな雰囲気の父親は、初めてできた彼氏を想い噛み締めるように述べた娘を、少し寂しそうに見つめていた。
「未来の大切な彼氏だ。もちろん失礼のないようにするよ。ただ、お父さんやっぱり同棲するのは早いんじゃないかと思うよ……」
「あら、お父さん前にオッケー出したじゃない!」
キッチンからツカツカと歩いてリビングまで来ると、男に二言はないでしょうと、腰に手を当てて妻が夫を責める。
「私たちも結婚前に同棲したじゃない。自分はよくて未来はダメってそりゃないわよ」
「そうだそうだ!」
「うっ、それはそうだが……しかし……」
味方になってくれる母親に、これ幸いと加勢する未来。
そこを突かれるといつも反論できなくなってしまう父親だが、今日ばかりは違った。
「で、でもまだ未来は学生なんだ!同棲なんかして、妊娠でもしたらどうするんだ!」
しばらく躊躇するように口ごもっていた父親が、思い切って叫ぶ。
「にっ……!?」
「妊娠なんて同棲してようがしてまいがする時はするわよ!」
直接的なワードに大いに動揺した未来の顔が真っ赤に染まる傍ら、あっけらかんと母親が言い放った。
「な……」
彼氏ができたんだ、そりゃそうかもしれないけども。
妻の言葉に予定外のダメージを受けた未来父は、それきり二の句が継げない。
「未来、分かってると思うけど学生の間はちゃんと避妊しなさいよ」
「う、うん」
母親へこくりと素直に頷いた未来だが、ズーンと落ち込んだ表情でこちらを見つめている父親と目が合いハッとする。
「ていうか、妊娠とかするわけないから!変なこと言わないでよね!」
「よかったわねお父さん、まだそんな関係じゃないみたいよ」
居た堪れなくなった未来が叫べば、くすりと笑って妻が夫へ耳打ちする。
「それに、彼氏と同棲っていうか……」
「未来?」
ごにょごにょ小声でこぼしている未来へ、不思議そうに両親が首を傾げた時、突然ガタガタと部屋全体が揺れ始めた。
「うーちゃんだ!」
「飛影くんを連れてきたのね!」
「この怪奇現象、いつになっても慣れる気がしないな……」
裏女がやって来た合図に、顔を輝かせワクワクする母親と、身震いする父親なのであった。