long dreamB

□ヒロイン
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遊園地はそこそこに、七年前は行かなかった観光地にも足を伸ばし、ショッピングを楽しんで。
海沿いを手を繋いで散歩し、中華街にも寄るとちょうど夕飯時の時間となった。


「今日のディナークルーズ、すっごく楽しみにしてたんだ!」


七年前、サプライズで蔵馬が用意してくれたディナークルーズにとても未来は感激し喜んだものだ。
また体験したいとの彼女のリクエストに応え、蔵馬が予約してくれていた船へ顔を綻ばせながら未来は乗り込む。
今回は前回と違ってきちんとドレスコードのある、少しばかり格式高いレストランだ。


「素敵……!すごいすごい!また連れてきてくれてありがとう!」


絢爛な作りのらせん階段。
一面に敷かれた重厚な絨毯。
宝石箱をひっくり返したような美しい夜景。


豪華な内装と景色にピョンピョン飛び跳ねんばかりに喜び“すごい”と“ありがとう”を連発する未来に、蔵馬がふっと小さく吹き出す。


「変わらないね、未来」


「何度来てもこんなの感激するし嬉しいよ!」


「よかったよ、こんなにまた未来が喜んでくれて」


グランドピアノが中心に置かれていて、ディナークルーズにふさわしく高級感漂う船上レストランだ。
うっとりと船内を眺めている未来を、優しい蔵馬の眼差しが包む。


案内された窓際の席に座った二人の元に、スパークリングワインが給仕される。
未成年のためあの日は注文できなかったアルコール類を蔵馬と乾杯して嗜んでいるなんて、お互い大人になったなと未来は感慨深い気持ちになった。


「美味しいね。このワイン」


「うん。飲みやすいし未来が好きそうだなと思ったよ」


ワインはまろやかな飲み口で、辛すぎるものが苦手な未来の好みだった。
ふと未来が視線を海へ向ければ、ワイングラスを持って向かい合わせに座る自分と蔵馬の姿が窓ガラスに映っている。


七年前のディナークルーズはだいぶ気分的に背伸びをしたし、浮いていないかと心配にすらなった。当時から蔵馬は様になっていたけれど。
今の自分なら違和感なくこの空間に溶け込めているだろうか。


「私もちょっとはこういう店が似合う大人になれたかな」


「未来はすごく綺麗になったよ。あの頃も十分可愛かったけどね」


まだあどけない顔つきの少女から大人の女性へと、この七年で美しく未来が成長していった様を一番知っているのは蔵馬だ。


「ありがとう」


ストレートに褒められて、未来の頬にうっすら朱がさす。


(蔵馬もどんどんカッコよくなってく。ちょっと困るくらい……)


素敵すぎて心がもたないくらい、日に日に蔵馬の魅力は増していくばかりだとその整った顔立ちを眺めながら未来は思う。


「昨日ね、幻海師範の家に遊びに行ったら陣たちも来てたんだ」


「へえ、元気そうだった?」


美味しくて見た目も華やかなコース料理に舌鼓を打ちながら、未来は蔵馬と談笑する。
話題は昨日未来が幻海邸を訪れたことについてだ。


「うん!相変わらずすごく元気だったよ。師範と一緒に後輩の指導してた」


第一回魔界統一トーナメントが開催されて以来、幻海邸には彼女を師と仰ぐ若い妖怪が続々と訪れ、日々修行に励んでいる。
普段は魔界で生活している陣たちは、たまに幻海の元を訪れては兄弟子として彼らの指導をしていた。


「六人とも、次のトーナメントでは絶対優勝する!って燃えてたよ」


「前回の大会でかなり善戦してたし、組み合わせ次第ではいけるんじゃない?」


「蔵馬はどうなの?」


未来に問われて、前菜のテリーヌを切っていた蔵馬のナイフの手が止まる。


「蔵馬も次のトーナメント出るよね。優勝したいって思わない?」


「……正直、あまり考えてない」


魔界の覇者になりたいかと聞かれたら、他の出場者たちほどの熱意はないと蔵馬は自覚している。
昔は喉から手が出るほど欲した地位であり、盗賊として名を上げようとあれだけ躍起になっていたというのに。


けれど、決して蔵馬に欲がなくなったわけではない。
ただ彼の望むものの形が変化しただけだ。


「ふふ、私も。まあ私は蔵馬と違ってまかり間違っても優勝できるような実力ないけどね」


「未来だって、組み合わせ次第でわからないよ」


危険だからと未来の出場を断固として反対していた蔵馬も、今では彼女の実力を認めている。
それくらい長く、けれどあっという間の年月があれから経ってた。
 
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