long dreamB

□ヒロイン
1ページ/5ページ


電車に揺られて約40分。
降り立った駅のホームにて。


「わあ、ちょっと潮の香りがするね!」


はしゃぐ未来が愛らしく、隣の蔵馬が柔らかく微笑む。
鼻腔をくすぐる涼やかな香りには、二人とも覚えがあった。
改札を出た二人は、手を繋いで街へと繋がる歩道橋の上を歩く。


「懐かしいなあ……」


「ほぼ七年ぶりだね」


「そっか、もうそんな経つか」


感慨深そうに、未来はきらきらと光に波打っている眩しい海を眺める。
約七年前のあの日以来、初めて二人は縦浜を訪れていた。


今までも何度か二人の間でまたここへ行こうかという話になったことはあったのだが、結局一度も実行に移してはいなかった。
大学を卒業して一年経ち、未来の社会人としての生活が軌道に乗り始めた今回のタイミングでの実現となったのは、運命的だったと感じる。


「あの遊園地で遊んだよね」


「今日も行こうか」


「うん、行きたい!」


群生したビルとは不釣り合いにそびえ立つ観覧車が目印の小さな遊園地へ、七年前と同じように二人は向かう。


「あ、でも今日私たちこんな格好だね」


「少しだけなら問題ないよ」


今夜のディナーのドレスコードに従い、未来は綺麗めの上品なワンピース、蔵馬はジャケットを着ている。
遊園地にはそぐわない格好だが、着崩れない程度に遊べば大丈夫だろう。


「まず何に乗ったか覚えてる?」


「ブランコだろ、未来の希望で」


「そう!あれ好きなんだ」


当然だとばかりに蔵馬が答えて、嬉しそうに未来がはにかむ。
あの日の行程をなぞるように、二人は最初のアトラクションに空中回転ブランコを選んだ。


「これ乗るのも七年ぶりだよ。やっぱちょっと怖いね」


「万一事故が起きても、ちゃんと助けるから安心して」


「ほんと頼むよ、蔵馬!」


「まあ、今の未来なら自力で何とか出来そうだけどね」


ブランコに座って七年前と似たような会話をする二人だが、彼ら自身も、取り巻く環境も当時とはガラリと変化している。
この七年でめまぐるしく世界は変わり、本当に様々なことがあった。


今人間界には、雪菜やカルトのような魔界からの移住者がどんどん増えている。人間側も妖怪の存在に気づきつつあり、両者は徐々に歩み寄り始めている段階だ。
第二、第三回魔界統一トーナメントの優勝者は、人間界へ友好的に接するという初代王者の煙鬼の方針を踏襲していた。


当時まだ高二だった二人も、今では立派な社会人である。
高校卒業と同時に義父の会社に就職した蔵馬は、優秀な腕を買われ既に役職持ち。周りの社員からの信頼も絶大だ。


無事第一志望の大学に合格し四年間経営学を学んだ未来は当初の志どおり、妖怪と人間の橋渡しとなるような事業を始めた。
人間界へ移住した妖怪が快適に暮らせるようサポートしたり、魔界への観光ツアーを開いたり、地道にコツコツ妖怪と人間の垣根がなくなるよう励んでいる。


高校を卒業してから今まで、蔵馬と未来は特に大きな喧嘩をすることもなく順調に愛を育んできた。
二人はいつも自然に互いを思いやっていたし、単純に相性がとてもいいのだ。


同世代の他のカップルがするように休日や平日の夜にデートを重ねて、時間を見つけては遠出して旅行して。
一緒に美味しいものを食べて、同じ景色を見て笑い。
ごくたまに小さな喧嘩をしても、その日のうちに必ず仲直りして抱きしめあう。


そんな穏やかなまばゆい日常を共に過ごしてきた二人は、当時以上に互いがかけがえのない存在になっている。
未来にだけ見せられる顔が、蔵馬にだけ見せられる顔が増えていき、今では互いが一番気を許せる相手だ。
照れくさかった秀一呼びも、とっくに未来は慣れっこである。


もう未来は蔵馬なしの人生は考えられなくて、彼も同じように思っていてくれたらどんなに嬉しいか。
最近そんなことをよく考える。


「キャーー!!」


風が涼しくて気持ちいい。
ブランコが空高く上昇し回転を始めてからも、爽快感に叫びながら未来は蔵馬のことを想う。


いつか志保利に語ったように、これからもずっと彼のそばにいさせてほしいと。
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ