long dreamB

□雪男の戯言
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この世の滅亡の危機に、雪菜の兄を名乗る輩の登場。
悪いことは重なるというが、あまりにも災難が続いている。


次元の穴を開け、たどり着いた桑原家。
逸る気持ちを抑えられず、未来が呼び鈴を連打しているとしばらくして玄関扉が開けられる。


「未来ちゃん、そんな何回も押さなくても……」


「桑ちゃん、ホシはどこ!?」


ホ、ホシ?と狼狽えている桑原の脇を通り過ぎ、おじゃまします!と言って靴を脱いだ未来はズンズン勇んで廊下を進んでいく。


「あ、未来さん」


リビングの戸を開けると、ソファに座っていた雪菜がこちらに気づいた。
彼女の隣にいる人物の姿をとらえた途端、未来は驚きで静止し言葉を失う。


「雪菜、この方は……?」


「私と和真さんの友人の、未来さんです」


柔らかな長髪。雪のように白い肌。
紅い瞳に、可愛らしい目鼻立ち。


男物であろう黒い甚平を着た少年の容姿が、同一人物と見紛うほどに雪菜と瓜二つだったからだ。


「未来さん、はじめまして。雪菜の兄の、ユキオと申します。妹が世話になっているようで」


雪菜より凛々しい眉をしたユキオと名乗る少年が、人好きのする笑みを浮かべて立ち上がり挨拶した。
身長は雪菜や飛影と同じくらいだろう。少し目線より低い位置にあるその可愛らしい顔を見下ろしていると、未来の胸にムカムカとしたものがこみ上げる。


「どの口が……!あんた一体どんなつもりで雪菜ちゃんに近づいたの!?」


「いたたたたっ……!!」


「未来ちゃん!?」


ぐいーんとユキオの両頬を思いっきり引っ張り出した未来を、慌てて桑原が引き離した。
突然の未来の奇行に、雪菜も目を丸くして驚いている。


「未来ちゃん、雪菜さんのお兄さんに何すんだ!」


「……変装じゃないのか」


後ろから桑原に取り押さえられ、ふーふー荒い息をしながら未来が呟く。あれだけ引っ張っても顔が崩れなかったということは、雪菜そっくりの顔は作り物ではないらしい。


「桑ちゃんも蔵馬から聞いてるでしょ!?氷女を狙う妖怪が最近皿屋敷市に出没してるって!」


「大丈夫です。その妖怪はボクが昨日退治しましたから」


胸を張って答えたユキオに、皆の注目が集まる。


「そ、そうなんですかお兄さま!?」


「ああ。雪菜に悪さしようとしていたから、雪男の能力で氷漬けにしておいたんだ」


ユキオをさっそくお兄さま呼びしている桑原が感銘を受けている一方、未来は益々表情を険しくさせていた。
氷女を狙う妖怪が出没しているとの情報は、飛影と雪菜の関係を知らない桑原にユキオを警戒させるべく蔵馬がついた方便だ。それを退治したなんて事実、あるわけがない。


「そうなんですかー!!さすがですお兄さま!!」


「あ、あんたねえ……」


息を吐くように嘘をつくユキオを、怒りでプルプル肩を震わせ未来が睨みつける。


今すぐに、飛影こそが本当の兄なのだと桑原と雪菜に教えたい。
しかし飛影ではなく自分の口からそんな大事なことを伝えるのは憚れて、未来は焦ったい思いでいっぱいだった。


「ユキオさん、大丈夫ですか?その頬……」


「すぐに冷やすモノ持ってきますね!」


「これくらい平気だよ、雪菜。未来さんも、悪く思わなくていいですからね」


じっと黙って静観していた雪菜がユキオの赤く腫れた頬へ視線を向けると、目にも止まらぬ速さで桑原がキッチンへ向かった。
思いのほか棘のない眼差しをユキオから向けられて、未来は意表を突かれる。


「未来さんの警戒はもっともです。この痛みは貴方が雪菜のことを想って、心配してくれた証ですから……ボクは兄として感謝しなければならないくらいだ。……ああ、ありがとう和真くん」


桑原からタオルに包まれた保冷剤を受け取りながら、ふわりと未来へ微笑みユキオが続ける。


「未来さんのように警戒心の強く、雪菜を深く想う方がそばにいること、ボクはとても心強く有難い。これから少しずつ、疑いを晴らせるよう頑張りますね」


どうかよろしくお願いしますとユキオに頭を下げられて、やり場のない苛立ちに耐える未来が唇を噛む。


一体どうすればいい……?
飛影や幽助、蔵馬たちは頼れない。


自分一人でこの胡散臭い男の正体を暴かねばと、未来は必死で頭を巡らせる。
 
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