long dreamB
□When it rains, it pours
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「あれ、未来の携帯じゃない?」
「あ、ほんとだ」
そんな折、未来の通学用のトートバッグの中から電子音が聞こえてきた。大学生になったのを機に購入した携帯電話だ。
「噂をすれば旦那さんから?」
取り出した電話のディスプレイ画面に表示された珍しい名前に、目を瞬かせた未来の小脇をニヤつく友人が小突く。
「ううん」
「えー、じゃあ浮気?」
「いやいや違うよ!」
ちょっと揶揄ってみただけの友人は、手を横に振って否定する未来へ、わかってるよという風にふふっと笑う。
「早く出てあげなよ。私、この後バイトだから急ぐね!バイバイ!」
「あ、うん、またね!」
ニコッと笑って駆け出していった友人を見送り、未来は携帯電話を耳にあてた。
「もしもし、蔵馬?」
着信の主は、共に命を賭けた闘いの場に身を置き苦楽を味わった、未来の大切な仲間の一人だった。
『未来。今電話して大丈夫?』
「うん、ちょうど講義終わって帰ってたとこだったから」
電話口から聞こえたこちらを気遣う声に、大丈夫だよと未来は明るく返事をする。
この春から義父の会社で新社会人として華々しいスタートを切った蔵馬も、未来と同じく高校卒業を機に携帯電話を所有していた。
『飛影は一緒にいますか』
「飛影?今は魔界へ行ってるよ」
『そうですか……』
飛影は時雨や奇淋と共にいつものパトロール業務に従事している頃だろう。あるいは百足の鍛錬場で暴れているかもしれない。
思案するように沈黙する蔵馬に、未来は首を傾げる。
「飛影に用事?急用なら呼んで来ようか?」
『……いや、飛影が人間界へ戻ってくるのを待つよ。未来、急だけど今から幽助の家で会えないか?』
「それは大丈夫だけど、何かあったの?」
『未来たちに相談したいことがあるんだ』
蔵馬の声色から緊迫したものを感じ取った未来の表情が、真剣なものへと変わる。
「わかった。今から幽助ん家行くね」
『ありがとう。オレもすぐ向かうよ』
じゃあまた、と通話を終えた未来は、新妙な面持ちで手元の電話を見つめ道端に佇む。
何人もの学生が脇を通り過ぎ、ポツリポツリと頭に水滴が落ちてきたところでハッと未来は我にかえった。慌ててバッグから折り畳み傘を広げ、幽助の家へと向かう。
蔵馬が自分たちに相談だなんて、よっぽどな何かがあったのだろうか。不安が募るが、今やるべきことは一つだ。
幽助の家への道すがら、人気のない路地裏に立ち寄ると未来は声を張り上げた。
「うーちゃん、おいで!」
瞬間、ずおっと大きな暗い影が辺りを包む。未来の相棒兼ペットである裏女の参上だ。
「飛影に呼ばれて迎えに行ったら、今日は幽助の家に送ってくれる?蔵馬たちと一緒に私もいるから」
主人の命令に、大きく頷いた裏女は次元の狭間へと姿を消す。
魔界と人間界の行き来の手段として、いつも飛影は裏女を呼び寄せていた。こうして彼女へ命じておけば、飛影は魔界での用が終わり次第、幽助の家に現れるだろう。
続けて未来も幽助のマンションを念じながら次元の穴を開け、その中に飛び込む。そうして幽助の家の玄関前に到着した時には、小降りだった雨は本降りとなっていた。
「よお、未来。蔵馬はまだ来てないぜ」
呼び鈴を押すと、程なくしてドアが開けられる。仕事が休み故か、ラフに髪をおろしている幽助に未来は迎えられた。
「おじゃまします。幽助、一昨日はラーメンごちそうさま。今日は定休日だっけ?」
「おお。パチンコでも行くかと思ってたとこで蔵馬から電話あってさ」
幽助に促され、未来はリビングに足を踏み入れる。温子は不在のようで、家にいるのは彼一人だけだった。
「桑ちゃんもまだ来てないんだ」
「桑原?そういや蔵馬、桑原呼ぶとは言ってなかったけど来んのかなアイツ」
「え、てっきり桑ちゃんも呼ばれてるんだと思ってた」
実は蔵馬はちゃんと桑原も呼んでいるのだろうか。彼だけ招集していないとすれば、何か意図がありそうだが。
「蔵馬の話ってなんだろ……」
「さあな。案外すっげーくだらねぇことかもよ」
「それならいいけどさあ」
気を揉む未来がカーペットに腰をおろしたところで、ピンポーンとインターホンが鳴る。蔵馬がやって来たのだろう。