long dreamB

□When it rains, it pours
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「ねえ、未来って休みの日は旦那さんと何してるの?」


今にも雨が落ちそうだ。
眩しいくらいさんさんと晴れていた天気は、夕方に一変した。曇りがかった暗い空を見上げながら考えていると、ふいに友人に訊ねられる。


長い講義が終わり、キャンパスを出た先の並木道を未来は同学部の友人と並んで歩いていた。
入学した際は満開の桜で彩られていた景色も、すっかり青々しくなったものだ。通りは帰宅する学生であふれていて、ゆっくりとした足取りの彼女たちを何人か足早に追い越していく。


「え……」


「どこに出かけることが多いのかなって!」


分かりやすく質問を言い変えた友人が、興味津々のキラキラした瞳で訊ねる。


入学して早々に開催された懇親会で、未来が既婚者だと判明すると周りの学生たちは大きく驚いた。新婚の同級生なんて新鮮で珍しく、しばらく未来は質問攻めにあったものだ。
ちなみに未来のことを可愛いなあと思いアプローチの機会を窺っていた男子学生もちらほらいたのだが、さすがに人妻を狙うわけにはと皆すごすごと引き下がっていた。


魔界に戸籍や婚姻届のシステムはないため、妖怪の夫婦はみな人間界でいう事実婚状態だ。公的な文書がなくとも、本人たちの同意があれば正式な夫婦だという認識が魔界では浸透している。
あのプロポーズを経て共に生活を始めた飛影と未来も同様だ。ずっと一緒にいると、二人は互いに誓い合ったのだから。


「そういえば、全然お出かけなんてしてないかも」


デートらしいデートなんて、最近全くしていないと未来は思い至る。
飛影と一緒に外出するのは、近所の散歩くらいのもので。幽助のラーメン屋に二人で行くことはあるが、それもごくたまだ。スーパーへの買い出しは家事ロボットのヒロシが行くか、未来が一人で済ませることが多い。


「付き合いたての時はプール行ったりしたんだけどね」


「そっかあ。旦那さん、警備とかSPの仕事してるんだっけ?疲れてるから休日は家でゆっくりしたいのかな?」


「うーん、そういうわけでもないと思うんだけどね」


嘘は言ってない嘘はと、心の中で弁解しつつ未来が答える。
飛影は魔界でパトロールの仕事をしているし、時雨や奇淋と百足を基点として活動しているので軀の用心棒を務めているようなものではないか。まあ、彼らよりはるかに軀の方が強いのだが。


「旦那さんインドアなんだね〜」


自分と同居を始めるまで、家さえ持たず野宿暮らししていた飛影をインドアと評するのはおかしい気がする。かといってアウトドアともまた違う気がして、未来は返答に窮する。


「あ、でも一緒に山に行くことはあるよ!」


「山!?登山好きなんだ!」


「と、登山に限らず、身体動かすの好きな人だからさ」


闇撫の修行に付き合ってもらう際、幻海邸の山に入ることを指し言ったのだが、やはり上手く説明することはできない。


「登山以外で、未来は外でデートしたくならないの?」


「あんまり考えたことなかった……」


友人の問いに、未来は目から鱗が落ちるような気分だった。


未来はただ飛影と一緒にいるだけで幸せだった。一年も彼と逢えなかったことを考えたら、今の状況は夢のようだ。


身体を重ねたことで、深く互いを知り、彼との距離も近づいた気がして。
もっともっと飛影のことが好きになった。


大好きな人と身も心も結ばれることでこんなに嬉しくて幸せな気持ちになれるなんて、今まで誰も教えてくれなかったと初めての夜に未来は思い、内心周囲の人間を詰ったものだ。


未来が飛影だけしか知らないように、飛影のことを知っているのも未来だけで。


一生懸命自分を求めてくれる姿。熱い瞳も、温もりも。飛影の指が唇が、どんなふうに愛しい人に触れるのか。
全てこの世界でただ一人、自分しか知らない特権なのだと思うと未来は身がすくむ程の言いようのない喜びに満たされた。


当たり前のように飛影が自分の元へ帰ってきてくれることが、本当に幸せで……噛み締めるように日々を過ごしていたから、デートしたいという発想に今まで至らなかったと未来は振り返る。


「でも、今度たまには一緒に出かけたいって言ってみようかな!」


「うん、旦那さんも未来が頼んだらきっとデート連れてってくれるよ!」


力強く述べた友人へ、未来も微笑んで頷いた。
 
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