long dreamB

□feat.雷禅
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扉の先はだだっ広い真っ白な空間だった。
果たして行き止まりなんてあるのだろうか、見渡す限りの白の世界の真ん中にその男は座っていた。


「よォ、未来。よく来てくれた。バカ息子も一緒か」


雷禅がおもむろに俯いていた顔を上げる。
無造作に伸ばされた長髪は金にも銀にも見えて、未来の目を惹きつけた。


「元いた世界に帰っちまったって話だったが、オレは絶対お前さんは戻ってくると思ってたんだ」


「そういやオメーそんなこと言ってたな」


「はじめまして、未来です。えと、幽助にはお世話になってて……」


「お世話してるの間違いだろ?こちらこそ愚息が世話になってるな」


「ンだとコラ」


「図星だろ。たまに下界を見ていたが、お前、トーナメントとは考えたじゃねェか」


幽助が魔界を変えていく様子を、雷禅は上から眺めていたらしい。
しばらく雷禅は幽助と親子の会話を交わすと、視線を未来へと移す。


「本当に未来にそっくりだな」


まじまじと未来の顔を見つめ、聞き間違いかと疑う台詞を雷禅は呟いた。


「だが、アイツよりだいぶ純朴そうだな。何の因果かお前さんの母親の名前も、未来っていうんだぜ」


「私の闇撫の母親を知ってるんですか!?」


「腐れ縁の幼馴染だ」


一つならず二つも明かされた衝撃の事実。
まさか幽助と自分の親同士が顔見知りだったなんて。しかも遠い昔の妖怪の先祖と両親のつけてくれた名前が同じとは、なんたる偶然だろう。


「死に際に未来のこと頼むってオレに言ったのも、その母親が関係してんのかよ」


「ああ。アイツの遺言だ。天才の自分に似て娘も別嬪だろうから、悪い虫がつかねェか見張っとけってな」


顔は瓜二つでも娘と違い、母親の方は高飛車な性格の自信家のようだ。


「それならもう心配いらねーな、未来。とびきり良い虫がついたからよ」


ニヤつく幽助が未来を小突く。


「ハッ、そいつに負けてお前はフラれたってわけか」


「なんでそーなんだよ」


「違いますよ!幽助には螢子ちゃんがいるし……!」


雷禅は無言でただニヤニヤしており、どうやら揶揄っただけらしい。


「お前さんが選んだのはいい男か、未来」


「はい。……すごく」


「そうか。大事にしてもらえ」


はにかんだ未来から幸せそうな様子が伝わって、雷禅がニッと口角を上げる。


「未来は自分の母親についてどこまで知ってんだ」


「私が生まれた世界の人間の男の人との間に子供を産んで、魔界に戻ってきてその事を話したけど嘘つき呼ばわりされちゃって、心労で倒れて亡くなったってことしか」


「ああ?アイツが他人からの雑音なんざ気にするタマなわけねェだろ」


未来が樹から聞いていた伝承話を、雷禅は一蹴した。
長い年月をかけ伝えられるうち、話が変わっていってしまっていたようだ。


「じゃあなんで未来の母さんは亡くなったんだよ」


「夫と死別した上に子供と引き離されたショックが、さすがのアイツも産後の身体には堪えたようだったな」


出産後すぐ夫が病に倒れて亡くなり、悲しみにくれるなか精一杯子供を育てようと決意したのも束の間。夫の親戚一同から彼の死は物の怪の女に誑かされたせいだとひどく糾弾され、子供を取り上げられたのだ。
“この子は人間として私たちが大切に育てる、お前は出て行け!”という言葉に追われ、泣く泣く一人で魔界へ戻ってきたという。人間である息子を魔界に一緒に連れて来るわけにもいかず、残していくのが彼にとっては幸せだろうと信じて。


雷禅が語る昔話に、幽助と未来はじっと静かに耳を傾けていた。


「魔界に帰って間もなく、産褥熱でコロッとアイツは逝っちまった。今より魔界医療も発達してなかったしな。……同情するか?」


雷禅に問われ、こくりと未来が頷く。


「だがな、アイツは……未来は幸せそうに死んでったぜ。生まれた子供が父親似の男児だったから、親戚連中に受け入れてもらえて良かったとも言ってたな」


可哀想だと誰もが同情する話だろう。
けれども、彼女は決して不幸な人生を歩んだのではないと雷禅は主張する。
友と泣き笑い、愛しい者と出会い、別れ……色とりどりの瞬間で彩られた、鮮やかな生涯。
雷禅から見た彼女は、いつも眩しく輝いていた。


「未来。お前さんの顔や生んだ息子の成長を見られなかったのは、確かに無念だったと思うがな。娘の誕生をアイツは心待ちにしていたんだぜ」


初めて知る母親の想いに、未来の瞳が揺れる。


「……未来はいい奴だったよ」


遠い青春に思いを馳せた目をして、独り言のように雷禅が呟いた。
 
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