long dreamB

□feat.雷禅
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魔界統一トーナメントが煙鬼の優勝で幕を閉じてからしばらく。
コエンマに霊界へ呼び出された未来は、幻海邸を訪れていた。


「あれ、幽助も来てたんだ」


居間に入ると、我が家同然で寛いでいる幽助の姿があった。今日は前髪を下ろしており、幻海と共にボリボリ煎餅を食べている。


「オレもコエンマに呼び出されたからよ」


「え、幽助も?」


「勘弁してほしいぜ」


ふあ、と欠伸をかいた幽助がぼやく。人間界に帰ってきてラーメン屋台を始めた幽助の生活は昼夜逆転気味で、本来ならまだ布団の中にいる時間だ。
コエンマの命令を無視せず現れたのは、たまには幻海に挨拶伺いでもしようという意だろうか。


「二人とも揃ったし、さっさと霊界へ行ってきな」


「で、ばーさん、どうやって行くんだよ?」


霊界へ来てほしいからまず幻海邸へ向かえ、とだけぼたんを通じてコエンマに言われていた幽助。彼は死んでいた時にしか霊界へ赴いたことがないのだ。


「簡単だ。幽体離脱すればいい。その間無防備になる身体はあたしが見張っててやるから安心しな」


「はあ!?急にできるかよ!」


「私も練習したら出来るようになったよ!蔵馬からのアドバイスは、起きながら寝るって感じだって」


何度か霊界へ行ったことのある未来は、すでに自力で幽体離脱する術を習得している。


「んなこと言われてもできねーよ!未来の闇撫の能力でパッと行けねーのか?」


「さすがに霊界へはムリだよ」


「ったくごちゃごちゃうるさいね!」


ボカッと幻海から頭を殴られ、気絶した幽助が畳に倒れる。眠る幽助の霊魂体だけを起こし、見事な早技で幻海は彼の幽体離脱を成功させた。


「懐かしいなあ。私も初めて霊界へ行った時は、師範に殴られましたよね」


苦笑いしながら、未来も続けて幽体離脱を行う。


(幽助眠そうだったから、寝てもらって師範が霊魂体を起こせばよかったんじゃ……)


無駄に痛い思いをする必要はなかったのではと思う未来である。


「コエンマ様、こんにちは」


そうして無事霊界に到着した二人は、コエンマの執務室を訪れていた。


「コエンマ、急にオレらを呼び出してどういう魂胆だよ」


「二人に会わせたい者がいてな」


赤ちゃん姿のコエンマが、いつになく真面目な顔をして机の上に手を組み座っている。


「実は雷禅の魂が今日にも霊界を去り旅に出る。その前に未来に会いたがっておるのだ」


死者の通過点である霊界を去れば、もう永遠に現世との交流は叶わない。
魂の旅に出発する前に、雷禅は未来との対面を希望しているという。行き先は天国か地獄か、それとも。


「どうして私に!?」


「ワシも知らんが、何か話したいことがあるらしいぞ」


雷禅について未来が知っていることは少ない。
とてつもないパワーを誇る大妖怪で、幽助の魔族としての父。突然なぜか人間を食べることをやめ、飢餓のため亡くなった。
それくらいだ。


「雷禅が未来に!?……あ」


「幽助、心当たりがあるのか?」


「“闇撫の娘を頼んだ、お前がしっかり守ってやれ”って死に際に言われたんだよ」


「え!どうして……」


「さあな。理由訊く間もなく逝っちまった」


初耳の雷禅の遺言に、未来は動揺を隠せない。


「あれ、でももうとっくに四十九日は過ぎてませんか?」


「全ての生命体がきっかりその日数で今世を去るわけではない。雷禅のような大妖怪はなおさらだ。親子で顔を合わせられる最後の機会だしな、ワシの独断で幽助も呼んでおいた」


コエンマの言葉を、珍しく神妙な顔をして幽助は聞いていた。
雷禅との関係に、幽助に心残りはない。しかしせっかく痛い思いをしてまで霊界へ来たのだし、最後に顔くらい見ておくか。


「雷禅は未来の気が進まないなら来なくていいと言っておるが……」


「私、会いたいです。幽助のお父さんなら悪い人じゃないだろうし、私に何を話したいのか気になります」


未来ならそう言うと思っておったと、コエンマが机の引き出しから鍵を取り出す。


「廊下の一番奥に隠された扉の先に雷禅に控えてもらっておる。こっそり二人で会いに行ってくるといい」


コエンマから未来の手へと、秘密の扉の鍵が渡る。
未来はしばらく手のひらの上の鍵を見つめた後、ぎゅっと決心するように握った。


「本来ならこういうことは認められんのだが、今回は特別だ。ただし、ごく短時間だけな」


死者と生者の交流はご法度だが、今回限りは目を瞑ることにしたコエンマ。
霊界のプリンスの許しを得、二人は雷禅に会うべくその扉の鍵を開けたのだった。
 
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