long dreamB

□ミスター&ミス盟王
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「南野に声かける?」


「ううん。仕事中だもん。終わるまで待ってるよ」


こちらに気づく様子なく会計業務をしている蔵馬の横顔を見つめながら、未来は首を横に振った。
通行人の邪魔にならないよう、廊下の窓際の壁に背中を預ける。蔵馬の店番が終わるまで、こうして教室前で待機するつもりだ。
すると、廊下の向こうからワーワーと盛り上がる喧騒が聞こえてきた。


「岸さーん!絶対投票するよー!」
「白ドレス似合いすぎー!」


「盟王きっての美男美女の二人に、清き一票を〜!」


未来が視線をやると、拡声器を持った男子生徒に先導され、周囲に囃し立てられながらこちらへ歩いて来る華やかな二人組がいた。


(わ、可愛い)


にこにこと微笑んで周りに手を振っている、ドレスアップした女子生徒に未来は目を奪われる。
隣を歩くタキシードを着た男子生徒も、なかなか整った顔立ちをしている。


「すごく可愛い子だったね」


「あれは今年のミス盟王候補の一人の、うちのクラスの岸さん。隣にいたのはミスター候補の奴だよ」


目の前を通り過ぎていった彼らの背中を見送って、思わず未来がこぼすと海藤が詳しく説明してくれた。


「岸さんは去年のミス盟王でさ、二連覇は確実っていわれてる。ミス候補はドレス、ミスター候補はタキシード来て校内練り歩くのが毎年恒例なんだ。同じクラスから選出された候補者同士、二人組になってね」


盟王高校では各クラスから一名ずつミスとミスター候補を選出し、文化祭当日に投票を行う。
パンフレットに添付された投票用紙に、票を入れたいミスとミスターの候補者の名前をそれぞれ一名ずつ記入し、事務室前のボックスに提出するシステムだ。ちなみに不正を防ぐため記名式。
校庭のメインステージで行われる夕方の開票イベントは、全校生徒が注目する一大行事だという。


「うちのクラス、ミスターにはまず南野が推薦されたんだけど断ってたよ。結局アイツ、三年間逃げ続けたな」


「くら……秀一くん、そういうの絶対やりたがらなそうだもんね。よかった、断ってくれて」


蔵馬がミスターコンに出なくてよかったと、未来は胸を撫で下ろす。
あんな風に着飾ってミス候補の女の子と並んで歩く蔵馬の姿を見たとして、とても平静でいられる自信がない。


「へえ、随分堂々と惚気るようになったね」


「そ!そういうつもりじゃあ」


「南野の恋路を見守ってきた身としては、二人が収まるところに収まって本当によかったと思うよ」


「恋路!?」


あたふたして顔を赤くする未来の反応が面白くて、ははっと海藤が笑い声をあげる。
滅多にポーカーフェイスを崩さない海藤の笑みに周囲が驚き、ひっそりと騒つき出した。


「海藤が笑ってるぜ」
「あの子、何者?」
「まさか彼女?」
「すげー可愛いじゃん」


「未来」


二人に近づいていった学年トップの有名人の姿に、周囲はよりいっそうの驚きで息をのむ。


「秀一くん!」


廊下にいる自分たちに気づいて来てくれたのかと、未来の顔が花のように綻ぶ。
蔵馬は無言で未来の隣までくると、自然な動作で彼女の髪をすくい耳にかけた。
目の玉が飛び出そうになるくらいの衝撃を受けながら、彼らに注目していた学生たちは事の成り行きを息を殺して見守る。


「あ、乱れてた?ありがとう」


「未来、もう来てたんだ」


「うん。秀一くんのお母さんと別れた後、海藤くんにここまで案内してもらったの」


ドギマギしながら未来が大人しく髪を触らせると、満足したのか蔵馬は次に海藤の方へ顔を向けた。


「海藤は、未来と会うの久しぶりだったんじゃないか」


「ああ。こうして久々に南野と永瀬さんのツーショットが見られてよかったよ」


ニヤリと口角を上げた海藤の見透かしたような視線に、居心地の悪さを感じた蔵馬が閉口する。


こういうカオが見られるから、永瀬さんが絡んだ時の南野は面白いんだよなと胸中でほくそ笑む海藤。
彼女と別れておそろしく気落ちしていた頃の彼を知っているから、本当に二人が再会できてよかったと、しみじみとした感慨深さも込み上げていた。


「じゃ、オレは文芸部の方で用があるから」


「またね。ありがとう、海藤くん!」


片手を上げて去っていった海藤を見送る未来の脳裏に、魔界の穴事件の思い出が走馬灯のように駆け巡る。
一生忘れられない経験を共にした海藤は、未来にとって特別な友人だった。勿論、蔵馬にとってもだ。
 
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