long dreamB

□ミスター&ミス盟王
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吹奏楽部の公演が終わると、そろそろ蔵馬の店番が終わる予定の時間だった。
体育館を出た横の小スペースで、志保利と未来は立ち止まる。


「じゃあ、私はママ友とここで待ち合わせしてるから。未来ちゃん、今日はありがとう。すごく楽しかったわ」


「私もすごく楽しかったです!ありがとうございました」


今日志保利と話せて、未来の心は穏やかに晴れ上がった空みたいに澄んでいる。
志保利の記憶をいじる必要はない、変えたくないと、衷心から思えた。


「未来ちゃんの文化祭はこれからが本番ね。秀一と楽しんでね」


微笑んだ志保利は、体育会から出てくる人波に目を止めて「あら」と呟いた。
志保利の視線の先に眼鏡をかけた知人の姿を見つけて、未来は叫ぶ。


「海藤くん!」


振り向いた海藤が、未来の姿に気づいて驚いたように眉を上げた。


「永瀬さん……久しぶり」


「わあ、元気だった!?」


「ああ。南野から話は聞いてたけど、永瀬さんも元気そうでよかったよ。南野のお母さんも、ご無沙汰してます」


「こちらこそ、いつも秀一がお世話になってます」


去年の六月以来、未来は海藤と一年以上ぶりの再会を果たした。
海藤が会釈すると、志保利も柔らかく微笑んで応える。


「未来ちゃん、海藤くんと知り合いだったのね」


「はい。秀一くんから紹介されて」


「そうだったのね。実は今から会うママ友って、海藤くんのお母さんなのよ」


「そうなんですか!?」


驚くと同時、南野さーん!と言って手を振りこちらへやって来る眼鏡をかけた中年女性の姿を未来はとらえた。その顔はどことなく海藤に似ている。


「これから南野のとこ行くんだろ?案内しようか?」


四人で軽く談笑すると、蔵馬、海藤の母親は二人で講堂の方へ向かっていった。
その場に残された未来へ、海藤が案内役をかって出る。


「いいの?助かる!迷っちゃいそうだったから」


片手で数えるほどしか盟王高校を訪れたことのない未来にとって、嬉しい申し出だ。蔵馬がいる教室を目指し、二人は校舎に入る。


「蔵馬と海藤くんのお母さん同士、仲良くなってたんだね」


「この前の保護者会で意気投合したらしいよ」


それよりさ、と校内を歩きながら海藤が未来へ切り出した。


「永瀬さん、南野と付き合ってるんだって?おめでとう」


「あ、ありがとう」


恥ずかしそうに目を泳がす未来へ、永瀬さんにも見せたかったなぁと海藤が続ける。


「永瀬さんがいなくなってからずーっと暗い顔してた南野がある日、目に見えて表情が明るくなって登校してきたからさ。どうしたんだよって聞いたら、永瀬さんと付き合うことになったって。一月末くらいだったかな?」


「あ……うん、それくらいの時に付き合ったから」


「あんなに分かりやすく上機嫌な南野は珍しいぜ。まあ、ようやく念願叶ったんだから無理もないか」


黄泉との婚約記念パーティーで想いを通じ合わせた後、傍目に分かるくらい学校でも蔵馬がそんなに喜んでくれていたなんて。
未来はみるみる緩みそうになる頬をおさえる。


「そういえば魔界の統一トーナメントで敗退して数日ぶりに登校してきた時も、三回戦で負けたって言ってたわりには機嫌よかったな……」


訝しげに首を捻っている海藤に何も応えることができず、うっすら染まった頬を隠すように未来は俯いた。


「はい、ここがオレたちの教室」


海藤が、フリーマーケットの看板が掲げられている四階の教室の前で足を止める。
廊下からこっそり未来が中を覗くと、教卓で会計係を務めている蔵馬の姿があった。
客から商品を受け取って袋詰めし、お金をやり取りする蔵馬の横顔を見つめていると、謎の感動が未来を襲う。


「蔵馬、ちゃんと働いてる!」


「そりゃ南野も店番くらいするだろ……。あと、ここではその呼び方マズいんじゃない?」


「あ、そうだよね。気をつけなきゃ」


念のため高校の敷地内では蔵馬呼びは控えるべきだろう。
蔵馬の家族の前で彼をそう呼ぶように、“秀一くん”を今日は徹底しようと未来は決めた。
 
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