long dreamB
□Five As One
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『さあて、トーナメントも二日目を迎えました。四ブロックとも一回戦第五試合からスタート致します!』
初日から一夜明け、なおトーナメント会場は熱気に包まれている。
実況小兎のかけ声と共に開始された試合を、観客席の最上部で手すりにすがりながら未来は蔵馬と二人で立ち見していた。
「蔵馬の二回戦、今日になるかな」
「このペースならやるんじゃないかな」
大画面のモニターが、流れるように進行していくトーナメントの試合を映し出している。
二回戦以降は次第に実力が拮抗してくるため長引くことが予想されるが、一回戦は早々に決着がつく試合ばかりだった。
「蔵馬、気をつけてね。次の相手強いんでしょ?」
蔵馬の二回戦の相手となるのが魔界整体師・時雨だ。軀軍の筆頭戦士として名を馳せた猛者らしい。
蔵馬の実力を信じてはいるが、もし彼の身に何かあったらと思うと未来は心配だった。
「ああ。勝つよ」
頼もしい台詞が返ってきて、未来は目を見張る。
「今なら誰にも負ける気がしないんだ」
清々しく晴れやかな顔で言い切った蔵馬の、柔らかい眼差しが未来を包む。
こんな気持ちになるのは初めてではなかった。
拐われていた未来が無事戻ってきた時、一度命を落とした未来が生き返った時……いつも蔵馬に力をくれるのは彼女だったから。
「昨日、今まで生きてきて一番幸せだった」
本当に、大袈裟でない蔵馬の気持ちだった。試合を通してめいっぱい未来からの想いを感じた後、身も心も結ばれて。
心から愛おしい相手と身体を繋げる、生まれて初めて味わった幸せを昨夜噛み締めていたのは未来だけではなく、蔵馬もだった。
そして彼女に触れる度、欲張りになっていく自分に気づかされる。
高まる熱を逃がすように、蔵馬は指の背で未来の頬を撫でた。
「ほんとう……?」
何百年も生きてきた蔵馬が?
夢みたいな言葉に、未来の胸に突き上げるような喜びが広がっていく。
「嘘ついてるように見える?」
「ううん」
未来はふるふると首を横に振る。蔵馬から受ける眼差しが、何よりも雄弁に“愛おしい”と語っていて……それが自分だけに向けられるものだと、未来はもう知っている。
「……ふふっ」
くすぐったくて、嬉しくて。照れ笑いしてはにかんだ未来につられ、蔵馬も微笑む。
「蔵馬っ!」
「…っ、未来?」
愛おしくてたまらなくなって、外であることも忘れ未来は蔵馬の胸に抱きついた。
大胆な行動に驚きつつ、蔵馬が彼女を受け止める。
「私、昨日のこと一生忘れない……」
「……うん。オレも」
しみじみと宝物のようにこぼされた言葉に、目頭が熱くなる。とめどなく胸にあふれる想いのまま、ぎゅっと蔵馬は腕の中に未来を閉じ込めた。
「あーら、お熱いこったねぇ」
とんできた冷やかし声に、ピシリと未来は固まり即座に蔵馬から離れた。
「ぼ、ぼたんにコエンマ様!?」
「いいんだよ。続けなって」
「ワシらのことは気にせずにな!」
ぼたんとコエンマの二人が、ニヤつく口元をおさえながらこちらへ歩いてくる。
「二人ともなんで昨日食事に来てくれなかったのさ」
「だってこんな風に絶対からかわれると思ったから〜!」
ぼたんらの気が済むまでひとしきり冷やかされた後、場の話題はいつ魔界を去るかへ移る。
「桑原は用事があるとかで朝イチで帰ったぞ」
「ああ、未来がうーちゃんに頼んでましたね」
「う、うむ。裏女を呼んで人間界まで送ってもらっておった」
トーナメントの際の桑原の送迎を先日未来が裏女に命じていたなと蔵馬は思い出した。
普通にうーちゃん呼びする蔵馬に内心ギョッとしたコエンマだったが、特に言及しないでおく。
「あたしたちも仕事があるし今日で霊界へ帰ろうと思うよ。未来はどうするんだい?」
「私も学校あるから蔵馬の二回戦終わったら帰るよ。あ、でも蔵馬の三回戦は絶対観に来るからね!」
「ありがとう、未来」
「ワシらの分まで応援よろしくな!」
「任せてください!」
「ありゃ、鈴駒くん負けちゃったね」
ドンと胸を叩いた未来は、ぼたんの言葉にええっと驚きモニター画面へと顔を向ける。
時折茶番染みた試合を挟みながら、トーナメントは順調に進んでいったのだった。