long dreamB
□犬蓼vs蔵馬
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A〜Dブロックに分かれて始まったトーナメント本選。
早々に決着がついたDブロック一回戦第一試合は、酎が対戦相手の棗という選手をナンパして幕を閉じた。
「見損なったぜあの馬鹿たれがー!バトル野郎の風上にもおけねェ」
Dブロックのモニター前で怒り心頭の鈴駒が叫ぶ。しかし彼もまた、対戦相手の流石ちゃんにメロメロになり敗北するという結末を迎える予定である。
「凍矢は善戦しているな」
Cブロックのモニターには、一回戦第二試合の様子が映されていた。
今のところ凍矢が優勢であり、この分だと彼の勝利は手堅いだろうと鈴木は安堵する。
「Bブロックは第二試合が終わったみたいだべ!」
「お、じゃあついに蔵馬たちか」
陣の一声で、幽助ら一同はBブロックのモニター前へと移動する。
「未来が予選に出た時はハラハラしたけど、本選は蔵馬が相手で安心だよな!」
「ああ。大怪我でもしたらどうするんだと思っていたからな……」
蔵馬なら絶対に未来を傷つけるようなことをせず、上手く勝利するだろうと鈴駒は確信している。
弟子の身を心配していた鈴木も大きく頷いた。
『さて、Bブロック一回戦も第三試合を迎えました。蔵馬選手と犬蓼選手こと未来さんは暗黒武術会でチームメイトでしたが、ここでは敵!どんな試合が繰り広げられるのか楽しみですね』
Bブロックのモニターに、闘技場で向かい合う未来と蔵馬の姿が映し出される。
苦楽を共にした仲間同士の夢の対決に、実況小兎も熱が入る。
『両選手とも癌陀羅軍営に所属されてましたから、浦飯チームの中でも縁の深い二人だとワタクシは思っております。黄泉選手の秘書であった妖駄さんから見て、お二人の関係は?』
『そうですな、良き友人といいますか……』
歯切れの悪い返事をする妖駄である。
『それではBブロック一回戦第三試合。犬蓼vs蔵馬。始め!』
「未来。最初オレは何もしないから、好きに動いていいよ」
「あんまり舐めてかかって負けても知らないからね!」
余裕たっぷりに攻撃を誘う蔵馬に、ムカッと頭にきた未来が叫ぶ。
そうして未来が刻んだ空間の切れ目の中へ、彼女の身体は神隠しにあったように消えていった。
『おーっと犬蓼選手、闇撫の能力で次元の穴を開け、その中へ入ることでどこかへ移動したようです!』
本選の舞台となる円形闘技場は、草原、ジャングル、砂漠、湖といった様々な自然環境を設置しており、選手が自分の能力を生かせる場所を選びながら戦う駆け引きが可能となっている。
手に汗握って小兎が実況する中、妖力を探るべく神経を研ぎ澄ました蔵馬はジャングルの方へ未来の気配を感じた。
姿を隠しやすい森を選んだというわけか。しかしジャングルは、植物使いの蔵馬にとっても有利な場所であると未来も分かっているはず。
それだけ自信があるということか?
眉を顰めた刹那、足元を這うような妖気を感じ蔵馬は跳び上がる。
木の上に着地した蔵馬が下を見れば、先ほどまで自分がいた地面に大きな暗い次元の穴が開いていた。
(やっぱり蔵馬は速い……!って、あれ!?)
予選の妖怪相手のように容易くは場外にできない。
茂みに潜んでいた未来が蔵馬の瞬発力に舌を巻いていると、気づけば木の上から彼の姿が消えていた。
「あっ」
いつのまにか目の前にいた蔵馬に、両手を掴まれる。そのまま太い木の幹を背に未来は身体を押しつけられた。
懸命に身をよじるが、男の力には敵わずびくともしない。
「くっ……」
「外せない?オレは今なんの妖力も込めてないんだよ」
綺麗な翡翠色の瞳に間近で見つめられ、未来は息をのむ。
蔵馬は植物を武器化しないどころか、妖力も使わない南野秀一としての肉体だけでいとも簡単に未来を追いつめてみせた。
悔しいやら情けないやらで、未来は返す言葉がない。
『な、なんだか両選手の距離がとても近いです!解説の妖駄さん、これは一体!?』
『こ、これは壁ドンという技ですな』
「あいつらイチャつくなって言っただろーが!」
実況者の二人が動揺を隠せない中、幽助は思いっきり顔をしかめている。
「分かっただろ?人間の男にすら未来は勝てないんだ。トーナメントで妖怪と戦おうなんて無謀すぎる。これに懲りたら……」
その先を述べることなく、蔵馬は未来から手を離さざるをえなくなる。
大きな怪物のような腕が、背後から彼を襲ってきたからだ。