long dreamB

□犬蓼vs蔵馬
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『ここまで残った奴らだからもしかすっと死んでもいいぐれーの覚悟で戦うつもりの奴もいるかもしれねーけどよ』


本選の火蓋が切られる前に、大会主催者を代表して幽助による開戦の挨拶が行われていた。
ステージに立ち、マイクを握る幽助に大勢の注目が集まる。


『正直言って死人は出したくねーんだ。やっぱ後味もよくねーしな』


何度でも挑戦し、何度でも戦いたいから。
極めて幽助らしい理由だった。


『実のところオレ今回優勝する自信はねーが二年後ならかなりいけると思うし』


「戦う前から負け惜しみか幽助ー!」


『もちろん優勝した奴が決めることだけどよ、できれば何年か毎にこうやってバカ集めて大将決められたらいいんじゃねーかと思ってる』


飛ばされた酎のヤジに、口の端を小さく上げつつ幽助は続ける。


『誰が勝ってもスッキリできる気がするんだ。んじゃおっ始めよーぜ!』


わあっと観客、選手たちから大きな歓声があがったのだった。


「おつかれ、幽助」


ステージを降り仲間たちの元へ戻ってきた幽助を、やや沈んだ表情の未来が労った。


「そう落ち込むなって未来!オメーがちょっと色目使えば蔵馬はぜってー攻撃できねーからよ!」


「幽助、さっきから笑いすぎ」


出来すぎた偶然にまたゲラゲラ笑い始めた幽助を、むくれた未来が睨む。


(一回戦の相手が蔵馬って、そりゃないよ〜〜!)


一回戦突破を目標としていたのにと、未来は心底嘆いた。


「大丈夫、安心して未来。痛みも傷の一つもなく負けさせてあげるから」


ニッコリとした笑顔を浮かべ、蔵馬が未来の肩に手を置く。
偽名を使ってまでこの危険な大会に参戦した恋人にひどくお冠の彼だったが、対戦相手が自分だと判明して以降すこぶる上機嫌であった。


「茶番もいいとこじゃねーか!未来、棄権しねーのかよ?」


「っ……しないよ。エントリーした時に、誰が相手でも棄権しないって決めたもん」


初心の決意を思い出し、これは逆にチャンスなのかもしれないと未来は気を取り直す。


(私が強くなったって身をもって蔵馬に分かってもらうんだ……!)


弱気になっていた心を奮い立たせ、未来はメラメラやる気に満ちあふれていく。


「蔵馬!あんまり油断してると足元すくわれるかもよ。どっちが勝っても恨みっこなしだからね!」


「望むところですよ」


一転して強気の未来だったが、蔵馬はやはり余裕げな態度を崩さない。


「おい蔵馬、まかり間違っても未来に負けるなよ」


「勿論」


二回戦の相手はおそらく時雨になる。
実際に時雨と相討ちになった経験があり、彼の強さを肌で知る飛影が蔵馬へ念を押す。
蔵馬とて、軀軍の筆頭戦士として名を馳せた妖怪と未来を戦わせるわけにはいかなかった。


「未来たちだべ!」


そんな折、未来ら四人を発見した陣たち六人が駆けてくる。
皆一様にニヤニヤしており、彼らが何を考えているか嫌でも未来は分かった。


「未来が出場したのも驚いたが、まさか対戦相手が蔵馬とはな!闘技場で夫婦喧嘩する気か!?」


ガハハハと酎が豪快に笑い、本選前の景気付けだと酒をあおる。
天は蔵馬の味方をしたなと、凍矢はしみじみと何故か感心したように呟いていた。


「蔵馬、頼んだよ。オイラたち蔵馬が勝つ方に賭けたんだから!」


「オレだけは未来に賭けたぞ。師匠が弟子を信じなくてどうする!」


「鈴木……!」


「今晩は鈴木の金で豪遊決定だな。たらふく飲み食いしてやろう」


「う……やはりオレも蔵馬にさせてもらえるか……」


「ひどーい!」


「阿呆か。全員が蔵馬にしたら賭けが成立せんだろう」


死々若丸の言葉にいえーい!と盛り上がる周りを見て、懐が不安になってきた鈴木が青ざめる。
じーんと感激したのも束の間、未来は頬をふくらました。


「じゃ、未来。そろそろBブロックの控え室へ行こうか」


「うん」


差し出された手をいつも通りとりそうになった未来だったが、すぐにハッとする。仲良く手を繋いで行くわけにはいかないだろう。


「蔵馬、ダメだよ!今から私たち戦うんだよ!?」


「テメーら試合中にイチャつくんじゃねーぞ」


イラァ…ときた幽助が忠告したのであった。
 
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