long dreamB
□BFF
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「くだらん冗談を聞かせるな」
「いや、鈴木のお兄さんのくだりが冗談なんだけど!」
下手クソな嘘だと、若干イライラした口調で飛影は未来の主張を一蹴する。
か弱く非力で、いつも飛影にとって守り庇護する存在だった未来。
そんな彼女がトーナメントに参加するなんて、飛影からしたら信じる方が無理な話だった。
「未来が参戦?一瞬でも信じる気になれん話だな」
フッと薄く笑った飛影の発言に、ガーンとショックを受ける未来。
(そ、そんなにありえないコトだと思ってるんだ……でもでも、頑張るって決めたから!)
改めて自分は相当無謀な挑戦をしようとしているのかもしれないと思い知らされた。
ずーんと落ち込む未来だが、折れかけた心を奮い立たせる。
「次の方、どうぞ」
流れるように参加者たちが続々とクジを引いていき、とうとう未来の番が来た。
緊張の面持ちの未来がポケットから取り出したエントリーナンバーの記載されたバッジを、係員が手元の参加者名簿と照合する。
「エントリーナンバー6192番、犬蓼選手ですね」
「それが奴の兄の名前か」
「もういいよ、そういうことにして」
ヘソを曲げた未来がクジの紙を引くと、127と数字が書いてあった。
「飛影、何ブロックだった!?」
続けてクジを引いた飛影の手元を、未来が覗き込む。
「5ブロックだ」
「軀さんは!?」
「74ブロック」
「よかったー!二人と当たらなくて!」
ホッと胸を撫で下ろす未来だ。
『予選の抽選が全て終了しました。1〜10ブロックの選手の方は闘技場に集まって下さい』
「あ……飛影、呼ばれたね」
選手全員がクジを引き終わり、さっそく予選開始のアナウンスが流れた。
「飛影、頑張ってね!飛影なら楽勝だろうけど!」
飛影最強説の提唱者であった未来は、彼の本戦出場を信じて疑っていない。
飛影が出ずして誰が出るというのだ。
「未来」
真っ直ぐな飛影の紅い瞳に射抜かれて、まるで世界に彼と二人しかいないような錯覚に未来は陥る。
ガヤガヤとした周りの喧騒が、どこか遠くに聞こえた。
「蔵馬ならお前を幸せにするだろうな」
こぼされた言葉に、未来が目を瞬く。
「うん」
ふんわり微笑んで、しっかりと頷いた未来。
その笑顔に安心して、つられたように飛影も小さく口角を上げる。
その仕草があまりに優しくて、思わず未来は言葉を失った。
「またな」
そう言って去っていった飛影の後ろ姿を、いつまでも未来は見つめていた。
飛影から向けられた眼差しが、蔵馬からのそれととても似ているように感じたから。
「飛影!」
追いかけてきたのは軀だった。
咎めるような声色で名前を呼ばれ、飛影が立ち止まる。
「いいのか。未来に何も言わなくて」
軀は痛いくらい知っていた。
飛影がどれだけ彼女のことを想っていたか。きっと、今でも。
飛影の記憶を覗いた時と同じもどかしさを軀は感じていた。
理由がなければ生きられない、初恋に溺れた少年の不器用な生き様がとても歯痒くて。
加えて、今は憤りも感じている。
気持ちを伝えず飛影が身を引けば、彼の優しさも苦しみも知らず、のうのうとこれからも未来は生きていくのだと思うと許せない。
何も知らずに飛影と蔵馬の間で無邪気にへらへら笑っている未来を想像して、カッと軀の頭が怒りで熱くなる。
飛影を呼び止めたのは、これが一番の理由かもしれなかった。
「貴様には関係ない」
「未来はお前に何を言われても迷惑がるような奴じゃない。お前も分かっているだろう」
やはりそう飛影は突き放したが、軀も引かなかった。
記憶の中の未来はいつも飛影を想っていた。大事な仲間だと。
そうでなければあんな風に微笑むわけがない。
先ほどの二人の再会を目の当たりにして、軀は改めてそう確信したのだった。
未来が飛影の好意を知ったとて蔑ろにするわけがない。
「黄泉やその息子よりかはだいぶお前の方が見込みがあるとオレは思うしな」
「聞こえなかったか。さっさとオレの前から失せろ」
苛立つ飛影の語気が強くなる。
らしくなく節介が過ぎる軀に、内心困惑もしていた。
「飛影!」
今度は軀の声ではなかった。
この場にいるはずのない人物の登場に、飛影は目を疑う。