long dreamB

□BFF
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メインステージ前には、予選のクジ引きのため出場選手たちが長蛇の列をなしていた。
目指すは一回戦突破。最低でも予選は通過しなくてはと、意気込む未来はこっそり最後尾に並んでいる。


(そのためには蔵馬や皆にバレないようにクジを引かないと……あ、変装してくればよかったのかな!?)


「おい」


未来が一人悶々としていると、よく知る低い声が耳に飛び込んできた。
期待と興奮で胸が高鳴り、まさかと後ろを振り返る。


「飛影!?」


「未来。なぜお前がここに並んでいる」


腕組みして立っていた飛影の姿に、みるみる未来の口角が上がっていく。
ずっと会いたかった懐かしい仲間との再会に、今にも彼に飛びつきたくなる衝動をぐっと我慢する。


「飛影〜〜!会場中探したけど全然見つからなかったんだよ!会えてよかったあ!元気だった!?」


「……少し落ち着け」


テンション爆上がりし、うるうる涙目になって感極まっている未来。
満開の花のような笑顔を一身に受けて、耳を赤くした飛影が居心地悪そうに視線を逸らす。けれどなんだか嬉しそうなのは気のせいではないはずだ。


「飛影、なんで私がまたこっちに戻ってきてるのってビックリしたでしょ」


「お前が戻ってこれたのは知っている。黄泉とのふざけた噂が百足でも流れていたからな」


ムカデ?と首を傾げた未来に、軀軍の移動要塞の名前だと飛影が教える。
黄泉の婚約という大ニュースは瞬く間に魔界全土へ知れ渡り、未来の帰還を飛影が知るのは必然だった。


「言っとくけどホントに結婚してないからね!?ちょっと事情があって偽の王妃やることになってたっていうか」


「それも知っているよな、飛影。妖狐たちが黄泉と一触即発の時、邪眼で様子を見ていたお前も加勢に行こうとしてただろ」


おい、と尖った声を飛影が背後へ向ける。
そこで初めて、未来は飛影の後ろに並んでいる細身の妖怪の存在に気づいた。丸い右目はおそらく義眼だろう。


「あなたは……」


「軀だ。初めましてだな、未来」


「ああ、飛影の上司の!」


中性的な顔立ちの妖怪の正体が判明し、初めましてと未来が挨拶する。
飛影と記憶を共有していたため、未来とは初めての気が軀はしなかった。


「黄泉と未来の婚約の噂を聞いた時も、蔵馬は何をしてやがるんだとかなり飛影は立腹していたぜ」


「貴様、そろそろ黙れ」


珍しくよく喋る軀を、ジロリと飛影が睨む。
その反応も面白いらしく、軀がまたニヤリと笑った。


「飛影、そうだったんだ……ありがとう」


黄泉との婚約には事情があるのだと、飛影は分かっていてくれたらしい。しかも、蔵馬たちが黄泉と戦闘になりかけた時、飛影も加勢する気だったのだ。
遠く離れた場所、敵対する陣営に属してもずっと見守ってくれていたのだなと感じ、未来の胸に熱いものが込み上げる。


「それで、お前は何故ここに並んでいるんだ」


「えっ!?えーと、実は鈴木のお兄さんもトーナメント出るんだけどさ、彼お腹が急に痛くなっちゃって、代わりにクジを引いてくれって頼まれたの」


即興で嘘八百を並べたてた未来。
飛影は要領を得ない表情をしていたが、しばらくして鈴木の顔と名前が一致したようだ。


「あのピエロか。どうせその兄とやらもふざけた野郎なんだろう」


「う、うーん、どうかな」


実際試合前に腹を壊すような間抜けだしな、と付け加える飛影。
勝手に名前を使われた挙句ディスられる鈴木に、ゴメンと未来が心の中で謝る。


そして、飛影に対する罪悪感がむくむくと胸の内にわき上がってきた。
せっかく一年ぶりに彼と逢えたのに、ソッコーで大嘘をついている自分って何なんだろう。


「……飛影。やっぱり本当のこと言う」


飛影には本当のことを言いたい。
蔵馬とタッグを組まれて出場を阻まれるかもしれないが、未来は飛影に再会してすぐ嘘をつく自分が許せなかった。


「ごめん。鈴木のお兄さんの話は嘘なの。本当は私がトーナメントに出るんだ!」


意を決して白状した未来が、おそるおそる飛影の反応を窺う。
その大きな三白眼を見開いていた飛影だったが、遅れて呆れた溜め息を吐いた。


「お前が出場できるわけないだろう。どうせつくならもっとマシな嘘をつけ」


「へ!?」


ぜ、全然信じてない!?
どうやらふざけて嘘をついたのだと思い込んでいるらしい飛影に、未来はたじろぐ。
 
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