long dreamB
□Naughty Baby
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「ただし約束通り、トーナメントの日までだからね」
「わかってるよ!私だって蔵馬不足だし……」
最近満足なデートも出来ていない。二人きりの時間が十分にもてないことを嘆いているのは、蔵馬だけでなく未来も同じだ。
かといって修羅を無下にもできず、高校の課題もこなさねばならず、それなりに忙しい毎日で未来は歯がゆい思いをしているのだった。
「未来」
こっちを向いてというニュアンスの声色で名前を呼ばれて、未来が顔を上げた。
蔵馬の指が頬や耳朶を掠めてドキドキする。
「トーナメントが終わったら、覚悟するように」
もう何度したか分からないキスが落ちてきて、うっとりと瞼を閉じる。
唇が離されると、なんとなく覚悟の意味が分かったような気がして、照れた未来が俯いた。
まだ門限まで猶予があるので少し話そうかということになり、二人ベンチに移動し腰かける。夕闇間近の公園は閑散としていた。
「ところで、こんなに毎日魔界に行ってお母さんやお父さんたちは心配してないの?」
「大丈夫。この前蔵馬と会って話してから、快く送り出してもらってるよ」
めでたく元いた世界とこちらとを自由に行き来できるようになった未来。
先日、異世界見学だと両親を人間界へ連れてきた際に蔵馬との食事会を開いたのだ。
ご両親にとっても大切な未来を預かるんだから、ちゃんと挨拶しておきたい。
そう言ってくれた蔵馬の言葉が未来はとても嬉しかった。
「よかった。緊張した甲斐があったよ」
「緊張してたの?そんな風には見えなかったのに」
蔵馬は顔合わせをスマートにこなしていたので、未来は意外だった。
彼は命の恩人だと未来が説明していたため会う前から蔵馬の印象は良かったが、実際話すとこんなに素敵でしっかりした青年と娘が交際しているとはと、両親はいたく感激していた。
「とっても蔵馬のこと気に入ったみたいだよ」
未来がまた次元間を行き来することを、心配する両親は当初反対していた。妖怪が参加する殺戮大会の優勝賞品になったり、戦いに巻き込まれ一度命まで落としたと娘から聞いていたのだから無理もない。
けれど蔵馬と会い、頼もしさを感じたようで食事会が終わる頃にはすっかり二人は安心しきった顔をしていた。
「僕には未来さんが必要です」
唐突に告げられて、未来が目を瞬く。
「何にかえても彼女を守るので、これからも未来さんと一緒にいさせてください」
それは蔵馬が未来の両親へ言った台詞だった。
もう一度繰り返された言葉に、くすぐったい記憶が呼び覚まされて未来の胸を打つ。
「未来からの返事、聞けてなかったと思って」
たしかにあの時は、両親だけが返答をして未来は照れた顔で蔵馬の隣にいただけだった。
そんなの、返事は決まっている。
「こちらこそよろしくお願いします」
微笑みあった二人を、あたたかな夕日が照らす。
「あとね、蔵馬。実はずっと考えてたことなんだけど……私、トーナメントに出ようと思うんだ!」
意を決して打ち明けた未来。蔵馬の綺麗な翡翠色の瞳が丸くなる。
「冗談でしょ?」
「ううん、本気!私も闇撫の力磨いて、前よりずっと強くなったもん」
未来は大真面目だと察し、蔵馬は表情を凍らせた。
「絶対ダメだ。未来が軽い気持ちで出るような大会じゃないよ」
「軽い気持ちじゃないよ!」
「それに、未来に何かあったらご両親に申し訳がたたない」
これには未来も怯んだ。
もし自分の身に何かあれば、守ると言ってくれた蔵馬の顔に泥を塗ることになる。
「危なそうだったらすぐ棄権するし逃げるから。お母さんたちの許可はとってるんだよ。自分の力試したいから大会に出てもいいかって聞いて」
「死んでも文句言えない大会だとは言ってないだろ?」
図星を突かれた未来が押し黙る。
「そもそもどうやって未来が戦うんだ」
「闇撫の能力を駆使して、影の手とか!」
「絶対に許さないから。この話は終わり」
「蔵馬、でも」
「ダメ」
未来が懇願するが蔵馬も譲らない。
この日以降も未来は蔵馬の説得を何度か試みたのだが、彼は歯牙にもかけず“ダメ”の一点張りだった。