long dreamB

□千年目の邂逅
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「幽助、皆……!」


蔵馬と未来のために、身の危険も顧みず皆は闘おうとしてくれている。
胸打たれると同時、未来が感じたのは焦燥感だった。


「バカめ。そんなに死にたいか」


「男なら引けねー時があんだよ。知らねェか?」


今にも得意の酔拳を繰り出さんと酒瓶をあおる酎が、黄泉へガンを飛ばす。
守るべきもののために、劣勢と分かっていても男なら立ち上がらねばならぬ時があるのだ。
それに彼らは戦ううちにまた強くなる。勝機はゼロではないはずだ。


「な、なんだこいつ!?」


「うーちゃんも戦おうとしてくれてるの……?」


突然辺りを覆った大きな影の正体を、唯一知らない幽助が狼狽の声をあげる。
命令もなしに現れて、黄泉を睨みつけている裏女の意志が未来へ強く伝わってきた。


「黄泉様!軀が接近しているのですよ!?」


急速に妖力を上げていく主人の不穏な気配に、飛び起きた妖駄が這う這うの体で庭へやって来た。


「知らん。あいつも軍を解散したなら問題ないだろう」


国家解散するという軀の声明を盲目的に信じるのは危険だ。幽助らとの戦闘で著しく黄泉が妖力を失った隙を突き、軀に攻め込まれるかもしれぬと考えるのは当然の懸念。
分かっていてもなお、今の黄泉は自分に反抗する者を力でねじ伏せたいという直情的な欲求に駆られていた。


「幽助。帰るのは未来だけでいい」


ローズウィップをしならせ、蔵馬が幽助の隣に並ぶ。
戦闘意欲を示すその行為。そして燃える翡翠の瞳からは、死ぬ気はさらさらないことが見てとれる。
死をも覚悟で挑むのと、死を見据えて闘うのとは似ているようで異なるのだ。


無様な負け戦にはしない。
蔵馬も自分と同じ気持ちでいると感じ、幽助がニッと口角を上げた。


「よっしゃ、さっそくおっ始めっか!」


「いいだろう、全員殺してやる」


「ストーップ!!」


幽助らに続き、不敵に笑う黄泉が構えをとり戦闘態勢に入る。
熱い妖気と妖気がぶつからんとした寸前、未来が声を張り上げた。


「皆、これ以上黄泉さんをいじめるのはやめよう!」


正義の味方ばりに叫んだ未来の台詞に、幽助や蔵馬たちだけでなく、黄泉も気を削がれた。
黄泉を飲み込もうとしていた裏女は、目を点にして主人を見つめている。


「はあ!?未来、何言って」


「黄泉さんはさ、ちょっと意地悪言って私を困らせたくなっただけなんだよね。なんか大ごとになって引くに引けなくなっちゃって、今正直焦ってるでしょ?」


喚く幽助を無視して、眉を下げた未来が黄泉へ同情の目を向ける。


「王妃のフリをやめるってことは、もうすぐ生まれる子供の世話を手伝うって約束も反故にされるんだって思ったんでしょ?国家解散強いられて、部下の人はいなくなっちゃうしさ。ワンオペ育児の過酷さが昨今叫ばれてるっていうのに……!」


「……は」


全く思いもよらない未来の台詞に、見当違いの情をかけられた黄泉が気の抜けた声を出す。
想定の遥か斜め上をいく彼女の言動に、皆も呆気にとられ言葉を失っていた。


「黄泉にガキィ!?……とてもいるよーに見えねーが」


「幽助、そこにはいないよ。保育カプセルの中にいるんだよ。黄泉さんの遺伝子から作ったんだって」


まじまじと黄泉の下腹部を見つめ、じゃあ戦えねぇかと一人納得している幽助に未来が教える。
幽助は黄泉のことを一体何だと思っているのだろうと頭の片隅で考えながら。


「安心して!王妃のフリはやめても、約束通り赤ちゃんの面倒みるのは私も少し協力するからさ。ね、蔵馬。一緒に頑張ろう!」


「えっ……」


突然道連れにされ困惑する蔵馬と、同じく動揺している様子の黄泉の視線がかち合う。黄泉の瞼は閉じられたままなのだが、こちらに注意を払っているのは分かるから不思議なものだ。
両者の間になんとも奇妙な沈黙が流れる。


「………未来がそうしたいなら」


未来一人を黄泉の子供のベビーシッターにさせたくはないと考えた上での、苦渋の返答であった。


「皆もよかったら手伝ってあげてね」


「オレ赤ん坊の面倒なんてみたことないべ」
「普段からオレたちは鈴駒の子守りをしてるだろ」
「あー、言ったな死々若!」
「おいよせ鈴駒!」


ガキ扱いされ憤慨する鈴駒と死々若丸の間で、黄泉そっちのけで喧嘩が勃発する。
周りがなだめるところまで含め、いつもの彼らお約束の光景だ。


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