long dreamB
□千年目の邂逅
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「……私が黄泉さんのものになったら、それであなたの気が晴れるの?」
「ああ」
ピカッとまた黄泉の背後で稲妻が光る。
自分を脅迫する彼を、神妙な面持ちで未来は真っ直ぐ見つめて。
「嘘だ」
轟く雷鳴音が静まると、芯の通った声でそう言った。
「……何だと?」
思わぬ未来の指摘に、黄泉が眉間に皺を寄せる。
そして彼女の心音が、いつのまにか平静を保っていることに黄泉は気づいた。
「そんなことしても黄泉さんは満足できないと思う。……自分が誰を求めてるのか、本当は分かってるんじゃないの?」
黄泉の脳裏に浮かんだのは、銀髪の妖狐の後ろ姿だった。千年間、ずっとその背中を追い続けていた彼の。
思い知らされた瞬間、全身の血が逆流したようにカッと熱くなる。
「知ったような口を……!」
逆上した黄泉の様子に、やはり蔵馬との関係に首を突っ込み言及すべきではなかっただろうかとの思いが未来の頭をよぎった。
しかし、すぐに首を横に振る。今後も黄泉と付き合っていくなら、どのみち避けては通れない話だ。
「私はあなたの言いなりにはならない。絶対に蔵馬から離れないから!」
黄泉に怒鳴られても、怯まず未来が啖呵を切ってみせる。
もう二度と蔵馬を諦めないと、彼と再会したクリスマスイブに決めたのだ。
皆を黄泉から守って、蔵馬と一緒にいる道を掴んでみせると未来は闘志に燃えていた。
「それに私は、黄泉さんに蔵馬を殺させたくない。蔵馬に手をかけたとして絶対に後悔しないって言い切れる?本当はそんなこと望んでないでしょ?」
「黙れ!」
誰にも、己さえも触れさせなかった心の奥を、未来は無遠慮に畳みかけ突いてくる。黄泉は今すぐ彼女の口を塞ぎたかった。
「オレは本気だ。未来さんがオレのものにならなければ蔵馬を殺す!」
未来を強引に連れ出そうと腕を伸ばした黄泉だったが、その手は空を切る。
「黄泉。二度と未来に触るなと言ったはずだ」
未来を守るように、黄泉との間に蔵馬が立ちはだかっていた。
黄泉を見据えるその瞳はひどく冷淡で、纏う妖気からはハッキリと戦闘の意志がうかがえる。
未来と同じように、蔵馬も心に誓っている。
愛する者をみすみす黄泉の手に渡すようなことはしないと。
自分の身と引き換えに彼女を犠牲にする道など選べるものか。
「未来のことは諦めてくれ。オレはお前にも誰にも彼女を渡すつもりはない」
「覚悟の上か、蔵馬」
怒りに瞼をヒクつかせる黄泉の妖気は爆発寸前だ。
「未来、早く逃げるんだ」
蔵馬が背後に語りかけるが、未来はその場をピクリとも動こうとしない。
「未来、早く!」
己が頼めばすぐに黄泉の手の届かないところへ逃げると約束したではないかと、蔵馬が詰る。
しかし未来は冷や汗をかくだけで、一向に次元の穴を開けようとしなかった。蔵馬を置いて自分だけ逃げることなど出来ない。
「ほう、そんなに蔵馬が死ぬところを見届けたいか」
ならば望み通りにしてやろう。
振り上げた黄泉の拳を、受け止めたのは蔵馬ではなかった。
「なっ!」
蔵馬との間に割って入り両手でパンチを受け止めた男の登場に、驚愕する黄泉が眉を上げる。
庇われた蔵馬は、目を丸くして友の背中を見つめた。
「幽助!?」
「…っ…いってェ〜!まだ痺れてるぜ」
赤くなった掌に息をかけ冷やしている幽助。
咄嗟に飛び出したため受けの構えが間に合わず、モロに黄泉の重い拳を受けたらしい。
「トーナメント前の肩慣らしになっかな。黄泉、まずはオレが相手だ」
ポキポキ手指関節を鳴らし、戦闘準備万端の幽助が黄泉を見据える。
強い奴と闘える喜びに、彼の目の奥が躍っていた。
「こいつの頭冷めるまでオレが相手しとくからよ、未来と蔵馬は先にばーさんとこ戻ってろ」
「オレたちも黙ってないぜ!」
顔だけ未来たちの方を振り向き幽助が告げる。今の黄泉の前に二人を晒すのは危険だと、彼なりに判断したらしい。
間髪入れず現れたのは、六人のS級妖怪たちだ。
「悔しいけど未来は蔵馬のことがすっごく好きなんだよ!邪魔するなよな!」
「全く美しくない口説き文句だ!二人の仲を引き裂くような行為、オレは許さん!」
鈴駒と鈴木の主張に、そうだそうだと陣や酎、凍矢が同意する。
死々若丸も無言で腰刀に手をかけており、加勢するつもりなのが見てとれた。