long dreamB
□横恋慕
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「未来〜。また蔵馬のこと考えてるでしょ」
ズバリ指摘され我にかえれば、ジト目の鈴駒がこちらを見ていた。
皆で夕食を囲む中、気づけば箸が止まってしまっていたようだ。
「えっ。いや、そんなことは……あるような」
今日も蔵馬はかっこよかったなと、ぽやんと彼のことを考え惚けていたのは事実であり、しどろもどろになる未来。
無事恋人同士になってからほぼ毎日二人は会っており、今日とて例外ではなかった。
「もう未来はオイラたちのことなんかどうでもいいんだ!この前のバレンタインも明らかに蔵馬へのチョコの方が格上だったしさ!」
わっと半泣きで机に突っ伏してしまった鈴駒が喚く。
先日のバレンタインデー、蔵馬へはきちんとラッピングされた手作りガトーショコラが用意されていたが、鈴駒たちは市販の板チョコをただ溶かして固めたやつを皿にドンと置かれ渡されたのだった。
蔵馬は未来にあーんしてもらってイチャつきながら食べたのだろうなと想像すると、悲しみは一層であったと鈴駒は回想する。
「どうでもよくはないよ!?」
「まあまあ、寂しいのは分かるが拗ねるな鈴駒。オレたちの分まで作ってくれて未来は優しいじゃないか!」
「美味かったしな!」
オロオロする未来を見かね、鈴木と酎が助け船を出した。
「んだべ鈴駒。未来困らせるんじゃねーっちゃ」
「そうだぞ。贅沢言うな」
陣も凍矢も鈴駒を窘め、まるで弟を諭すお兄ちゃんの図だ。
「なんだよ皆して!オイラの味方は死々若だけかよ!」
「おい。勝手に仲間にするな」
わざわざ口には出さなかったが、死々若丸も彼氏を特別扱いするのは当然だろうという価値観でいる。
本命と義理が全く同じチョコであれば、蔵馬が気の毒というものだ。
「ごめんね鈴駒。またガトーショコラ作るから」
「ホント!?約束だよ未来!ありがとう!」
「お前、ガトーショコラが食べたかっただけか?」
コロッと態度を一転させ未来に擦り寄る鈴駒に、呆れ顔の凍矢がツッコみドッと場に笑いが起きる。
「それにしても、未来は蔵馬と付き合ってすごく幸せそうだな!」
蔵馬と恋人同士になってから、ふわふわと周りに花が舞いそうなくらい未来は幸せオーラに包まれていた。
弟子の表情が明るくなってよかったと、師匠の鈴木も嬉しそうである。
そして、こんなに一心に未来に想われている蔵馬が羨ましいなあなんて、皆がちょっと思っていたりもする。
「あたしも二人がくっついて本当によかったと思ってるよ」
「師範……!」
「これで未来の面倒は全部蔵馬に押し付けられるってものだ。どうせならチンタラせずさっさとくっついてほしかったね」
じーんと感激したのも束の間、ガクッと肩を落とした未来を気にせず幻海は続ける。
「ようやくあんたがこっちに戻ってきたと思ったら変な妖怪に寄生されて、それが解決したら今度は痴話喧嘩したっていうじゃないか。焦れったいったらありゃしなかったよ」
「すみません……」
相当な苛立ちを感じていたらしい幻海に、申し訳なくなった未来が肩身を狭そうにして謝る。
「ま、蔵馬になら安心してあんたを任せられるね」
最近の幸せそうな未来の姿は、蔵馬に大事にされているのだろうと一目で分かるものだった。
優しく見守るような微笑みを向けられて、じんわり未来の胸があたたかくなる。
「それで、あんたを偽の妃に仕立て上げたっていう黄泉はあれから何の音沙汰もないのかい?」
「それが、ついさっき癌陀羅から使い魔が来たんです。明日重要な会議があるから私に参加してほしいって」
婚約記念パーティーから一ヶ月近くも無言を貫いていた黄泉だが、今日になって使い魔を寄越したのだ。
もしかして雷禅の死が近いのだろうかと、凍矢たちはざわついている。
「へえ。こうも黄泉の動きがないってのも不気味だったけど、何か企んでんじゃないだろうね」
「不気味って……ただ単に私に用がなかっただけだと思いますよ?」
幻海は勘繰りすぎではないかと思う未来だ。
婚約記念パーティーを開き、闇撫を戦力として得たことを広めるという黄泉の目的は果たせたはずだ。
来たる軀との一騎打ちまでは、黄泉は未来の闇撫の能力を使おうと考えてはいないようだった。
「まあ、十分気をつけて行っておいで」
危なっかしいところもある孫娘へ、幻海は助言したのだった。