long dreamB

□君しかいらない
2ページ/6ページ


階段をのぼってくる足音に、あっけなく流されそうになっていた未来が身体を強張らせた。
蔵馬も動きを止め、未来と共に息をひそめる。


どうやら足音は蔵馬の義弟のものだったらしく、隣の部屋の戸の開閉音がした後、また外は静かになった。


「………」


蔵馬が未来に覆い被さった状態のまま、無言で顔を見合わせる二人。
甘い熱にうかされていた未来の頭が、次第に思考力を取り戻していく。


(わ、私、下には蔵馬のお母さんたちがいるのに何して……!)


見上げた先にある蔵馬の顔を直視できなくて、未来が視線をそらす。
頬を蒸気させ俯く未来を、瞳に微かに欲を宿したままじっと蔵馬は見つめていた。


「未来」


「わっ」


しばらく思案していた様子だった蔵馬はフッと柔らかく微笑すると、未来の身体を起こし抱き寄せる。


「く、蔵馬」


「何もしないから。しばらくこうさせて」


その言葉に、仙水に殺され生き返った際に交わした妖狐との抱擁を未来は思い出した。
大好きな優しい温もりに包まれて、胸がツンとする。


「うん……」


応えるように、未来は自分からもギュッと強く彼を抱きしめた。


(蔵馬、大好き)


いっぱいの想いが伝わるよう、心を込めて。


その後は、蔵馬と手を繋いで近所を散歩したりゲームをしたりして。
夕飯までご馳走になった未来は、蔵馬の家族と食卓を囲み楽しい時間を過ごした。
再婚を機に、畑中親子は南野家へ引っ越してきたのだという。
蔵馬の義父はとても優しそうで気さくな人で、人懐っこい義弟は新しい兄が出来たことが嬉しくて仕方がない様子だった。


「今日は未来ちゃんが来てくれるって秀一から聞いて、前から楽しみにしていたのよ」


蔵馬の母・志保利のその言葉が、とても未来は嬉しかった。


蔵馬の家族が人質から解放されてよかったと、心から未来は思う。
絶対に彼らの平穏な生活が脅かされてはならないと、共に過ごしたことで改めて未来は感じたのだった。


「おじゃましました」


「未来ちゃん、また来てね」


すっかり日は落ち、おいとまする時間となった未来は玄関先で志保利らに見送られていた。


「駅まで未来をおくってくるよ」


「秀一、頼んだわよ」


南野・畑中家を後にして、夜の住宅街を彼と並んで歩く蔵馬と未来。
しかし駅まで向かうことなく、人気のない公園裏で足を止める。


「今日はありがとう。すごく楽しかった!」


「こちらこそ。オレも楽しかったよ」


二人微笑みあった後、言い忘れたことがあったと未来が気づく。


「そういえば、昨日ぼたんがうちに来たんだけどね、時間がある時にコエンマ様に会いに霊界へ来てほしいって」


「霊界へ?」


意外そうに訊ねた蔵馬へ、未来が頷く。


「ぼたんすっごく仕事忙しそうでさ、すぐ帰っちゃったから詳しくは聞けてないんだけど」


櫂に乗って幻海邸へ飛び込んでくるやいなや、要件を伝えると瞬く間に去っていったぼたんは嵐のようだったと未来は回想する。


「じゃあ明日の放課後さっそく行こうか」


「蔵馬、付き合ってくれるの?」


「もちろん」


一緒に霊界へ行ってくれるという蔵馬に、ぱあっと未来が顔を輝かせた。


「オレが未来を一人で行かせるわけないよ」


「ありがとう。霊界特防隊の人、私のこと疎ましく思ってるみたいだから一人じゃ不安だったんだ」


霊界特防隊に命を狙われる身の未来。
彼らの本拠地へ一人で赴くのは心細かった。


「魔界へも今後は一人で行かないように」


「わ、わかってるよ」


彼と想いを通じ合わせてから、何度も未来が念押しされた台詞だった。


「コエンマが霊界へ未来を呼び寄せるなんて、きっと良い知らせなんじゃないかな」


「うん!だといいな」


もしも未来にとって霊界が危険な場のままなら、コエンマが招待するとは考えにくい。


「じゃあ蔵馬、また明日ね」


「うん。おやすみ」


どちらともなく顔を近づけて、一度触れるだけのキスを交わす。


「うーちゃん、おいで!」


辺りに人がいないことを確認した未来が呼びかけると、ずおっと大きな妖怪の影が二人を包んだ。
彼女との……裏女との出会いは、約半月前に遡る。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ