long dreamB

□君しかいらない
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とある日曜の午後。
蔵馬の部屋の真ん中で、未来は一人正座していた。
誰に見られているわけでもないのに、自然と背筋が伸び姿勢を正してしまう。


未来が蔵馬の家に訪れるのはこれが二度目だった。
前回は幽助と一緒だったが、今日は違う。


(相変わらず綺麗にしてるなあ)


整理整頓された部屋を見渡し感心する未来。
この部屋で蔵馬と二人きりになるのかと意識した途端、未来の心臓が早鐘を打つ。


(いや、蔵馬に勉強教えてもらう時いつも二人きりだったじゃん!デートだってしたことあるし)


自分へツッコミを入れる未来だが、緊張するのも無理ないじゃないかと思う。
だって今日未来は正真正銘、蔵馬の“彼女”としてここへ来たのだ。


「お待たせ」


紅茶とお菓子を持った蔵馬が戻ってきて、また未来の心臓が跳ねる。


「もっとくつろいでいいよ?」


「あっ、うん。そうだね」


クスッと笑った蔵馬に促され、正座していた未来が足を崩す。


「ありがとう。いただくね」


ドキドキする胸の内を悟られないよう努めて平静を装い、紅茶を飲む未来。
しかし一挙一動をじーっと観察するように蔵馬に見つめられ、居心地悪そうにカップをお盆に戻す。


「な、なに?」


「ん? 可愛いなと思って」


未来をその瞳に映したまま、口元だけ動かして蔵馬はそう言った。
ポッと顔から火が出そうになるくらい照れた未来が赤くなる。


「な、なにそれ!」


ただでさえ緊張でどうにかなりそうなのに、これ以上自分を惑わすようなことを言わないでほしい。
可愛いの一言くらい余裕ある態度で受け流したかったが、分かりやすく動揺してしまい未来は悔しかった。


「蔵馬だって、かっこよすぎだから!」


口走る未来に、鳩が豆鉄砲を食ったような顔できょとんとする蔵馬。


いつも彼と同じ教室に通えるクラスメイトはいいなあなんて、羨ましくなるほど蔵馬は素敵だ。
そのカッコよさに今未来がどれだけ打ちのめされドキドキしていることか。


「ありがとう。未来から言われると嬉しいよ」


初対面では女に間違われたくらいだからね、とニッコリ不自然な笑みを浮かべる蔵馬に、未来の肝が冷える。
だいぶ彼は根に持っているようだ。


「そ、その話もう禁止!あの時の私はどうかしてたの!」


だってありえないと思う。
こんなにかっこよくて男らしい蔵馬を女と間違えるなんて。
体つきも、未来を見つめる眼差しも、その全てが男の人なのに。


抱きしめられた時の大きな固い胸板や骨張った手を思い出すたび、未来はキュンと身体の奥から溶けてしまいそうになる。


「私も、蔵馬から言われる可愛いは嬉しい」


他の誰より、蔵馬に未来は可愛いと思われたいから。
もじもじと未来が言えば、ならばたくさん伝えようと蔵馬が口を開く。


「未来はすごく可愛いよ」


「蔵馬はすごくかっこいいよ!」


負けじと熱く述べる未来に、耐えきれず蔵馬が吹き出した。


「今のオレたち、はたから見たら呆れられるでしょうね」


「ほんと。バカップルだ」


顔を見合わせ、クスクスと笑いあう二人。
なぜこんな馬鹿みたいになれるかって。


「浮かれてるんだよ。未来とこうなれて」


優しく蔵馬に髪を触られて、おさまっていた未来の動悸が再開する。
未来が好きでたまらないと、その手つきと眼差しが伝えていたから。


「私も浮かれてるよ。なんだか夢みたいだもん……」


ふわふわと、マシュマロの上を歩いているような心地だ。
とろんと目を細めた未来の唇に引き寄せられ、蔵馬が己のそれを重ねる。


「…んっ……」


触れるだけのものから、深い口づけへと。
キスの合間に、色を帯びた未来の吐息が漏れる。
あまりにも自然にニットワンピの裾から太ももに置かれた左手に、身体が固くなったのも一瞬だった。
髪を撫でていた蔵馬の右手に耳を塞がれて、リップ音が頭に響いてクラクラする。


(あ……蔵馬……)


いつのまにか押し倒されていた未来の首筋へ、蔵馬が唇を這わせる。
甘い刺激の応酬に、くてんと全身の力が抜けた未来はされるがまま彼を受け入れていた。


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