long dreamB

□King & Queen
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「は〜、鯱め、あのように熱い想いを秘めていたとは。御主もなかなかやるのう」


「な‥ななな‥‥」


完全に他人事で楽しんでいる妖駄の横で、唖然としていた未来がワナワナと震え出す。


「何言ってんのあの人!?頭おかしいんじゃない!?」


「その言い草はなんじゃ!悲しいかな鯱殿はあれでも我が軍のNo.2ぞ!」


未来を叱りつつ、自分も大概酷い言い方を鯱にしている妖駄である。


「婚姻て何!?黄泉さんは知ってたの!?」


「これ!様をつけろて」


「オレも君との披露宴の祝辞を頼まれた時は鯱の趣味を疑ったよ」


「披露宴!?あいつ勝手にそこまで企画してたの!?」


「まあ、蔵馬への嫌がらせだろうと考えれば腑に落ちたが」


「蔵馬への嫌がらせ!?なんの恨みがあるっていうのさ!」


鯱への怒りに燃える未来は、黄泉の失礼発言に気づく様子はない。


「ていうか私の名前も覚えてなかったのに、一目惚れしたなんて信じられないんだけど!」


「ああ、空の独断だという台詞も嘘だろうな」


さらりと述べた黄泉に、未来が眉をひそめる。


「気づいてて、止めずに殺させたの‥‥?」


「オレに次ぐ妖力を持つ鯱を罰し戦闘意欲を欠かれると軍の痛手だ。不要な猜疑心も生みたくはない」


鯱を越える人材が現れたら別だが。
心の中で付け加え、近いうち訪れるだろうその日の予感に黄泉がほくそ笑む。


「あいつを好き勝手させて被る煩労はあるが、奴を扱いやすくなる利の方が幾分上回る」


「鯱のことよく見てるんだね。機嫌損ねた方が面倒臭いから放置してるの?だからって‥‥」


「空に同情しているのか?奴のことは未来さんも恨んでいるだろうに」


「同情っていうか‥‥元凶の鯱がお咎めなしなのが気に食わない」


「悪いが理解してくれ。先に説明した通りだ」


黄泉に諭され、いまだ納得いかない未来だったが押し黙る。


「もう我慢ならん!黙って聞いておれば、黄泉様に何て口の利き方じゃ!」


「妖駄、下がれ。茶をもう一杯頼む」


「承知しました‥‥」


タメ口の未来に怒り心頭の妖駄だったが、黄泉に命じられすごすごと引き下がる。


「空の件も申し訳ない。癌陀羅での安全は保障すると言ったのに、見抜けなかったオレのミスだ」


潔い黄泉の謝罪に、未来は目を見張る。


「さっきも思ったけど‥‥空のこと、黄泉さんがそんなに怒るとは思ってなかった」


むしろ黄泉の命令で自分は何者かにとり憑かれたのだと考えていたから、未来は余計意外だった。


「取引の条件は守り、成果に見合う報酬は与える。でないと支持者はいなくなってしまうからな」


「蔵馬や私を脅迫はするのに?」


「強引な方法をとらせたのは君たちだろう」


素直に従わない蔵馬と未来の態度が、己に苦肉の策をとらせたのだと黄泉は主張する。


「それに前も言ったが、オレは蔵馬の家族に実際に手を下すことになるとは微塵も思っていない。奴は必ず期待以上の武功をあげる男だ」


「えらい信頼だね。信頼って言い方も変な気するけど‥‥。部下とも信頼関係を築こうとはしてるんだ、一応」


抑圧した政治を行っている人物に違いないと黄泉を評していたが、そういう面ばかりでもないらしいと未来は知る。


黄泉は約束を守ろうと努力しており、家臣へ相応の恩賞を与えているようだ。
そこに情なんてモノは皆無で、より意のままに部下を動かし国を発展させるために過ぎないのだろうが。


恐怖政治では敵国へ民は逃げ、優秀な家臣は引き抜かれ、癌陀羅のような大国は統治できないだろう。
妖駄のあの忠誠心も、今の話を聞けば頷ける。


「黄泉様の魔界掌握の踏み台とはいえ、表向きは家臣を大事にしているテイをとらんとな」


己が主君の最大の理解者だとばかりに、妖駄が黄泉に二杯目の茶を差し出しながらドヤ顔で述べる。


「じゃあ今回の件のお詫びもしてくれるの?」


「ほう。何が望みだ?」


「今回のことは水に流す代わりに、もう蔵馬の家族を人質にしないでほしい」


高価な物を強請られるとばかり考えていた黄泉は、意表を突かれた。


「あと、スパイ任務もやりたくない」


「はー!!こやつ一つならず二つもせびるとはなんたる図々しさ!!信じられん!」


目に余る未来の言動に、妖駄はカンカンだ。


「なかなか可笑しなことを言うな」


対する黄泉に怒る気配はなく、愉快げに笑みを浮かべている。


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